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交通事故をよく扱う弁護士におすすめの書籍

弁護士 森田祥玄

 私は以前、損害保険会社の案件を扱う名古屋では大きいほうに分類される法律事務所に所属しておりました。そして若い弁護士のための研修も企画し、また、保険会社向け勉強会の講師も担当しておりました。

 損害保険会社から依頼を受ける交通事故も他の案件と同様に、入所して間もない弁護士には初めて知ることが多く、戸惑うものです。そこで、私なりに、若い弁護士にいつもカバンに入れて頂き一読して頂きたい文献を、おすすめ順にまとめます。
 どの分野でも同じですが、薄めで読みやすい本で浅く広く勉強をして全体像を把握したうえで、徐々に深めていく方法がよいと思います。

1 損保会社のパンフレット
 まずもって何度も読み返して頂きたいのは、入所した事務所と取引のある保険会社のパンフレットです。一般ユーザー向けのものです。個人向け、事業者向けなど複数あります。また、自賠責保険請求用のパンフレットありますので、それも精読が必要です。
 人身傷害保険で保険料率があがると言ってしまうだとか、対物超過特約使用の交渉をしながら半年経過させてしまうだとか、ありがちなミスを防ぐには、まずは自社のパンフレット記載事項の理解が必須です。
 とはいっても、一般ユーザー向けに分かりやすく記載されていますので、ハードルは高くはない資料です。まずはここからスタートです。
 会話の基礎となる知識ですので、できる限りパンフレットが改訂されるたびに通読した方が良いです。

2 損害保険会社の約款
 パンフレット記載事項を理解しましたら、入所した事務所と取引のある保険会社の約款をざっと斜め読みしましょう。どこに何が書いてあるか分かる程度で構いません。保険会社も約款の全てを理解していることまでは期待していませんが、電話をしながらすぐに取り出せる位置に約款が置かれていることは期待されています。
 例えば契約者が破産をしたのですがまだ免責は受けていません、直接請求権を行使されているのですが、お支払いしてよいでしょうか、という質問をされた際に、その内容を即答できる必要まではありませんが、約款を開いて一緒に調べ、考えながら答えることができるレベルには到達する必要があります。

3 園部厚「交通事故物的損害の認定の実際―理論と裁判例」(青林書院)
 交通事故の紛争を扱う際になんとなく気になる論点が書かれています。車検証の所有者がリース会社となっている場合の損害賠償請求権者は誰か、だとか、弁護士費用特約に加入している場合に弁護士費用相当額損害金を請求できるか、など、かゆいところに手が届く知識が記載されています。

4 園部厚「簡裁交通損害賠償訴訟実務マニュアル」(青林書院)
 交通事故の知識がコンパクトにまとまっています。上記「4」の本の同一著者、同一出版社です。上記「4」の本と重複するところも多いのですが、それでも分かりやすく書かれており、薄めの本なので、一読をおすすめします。

5 藤井勲「新 示談交渉の技術―交通事故の想定問答110番」(企業開発センター)
 加害者側の想定問答集が記載されております。保険会社の担当者向けの本ですが、示談交渉の入門書として一読しておいた方がよい本です。

6 日弁連交通事故相談センター本部「交通事故損害額算定基準」
 青い本、青本と呼ばれる本で、多くの弁護士が読んでおくべき文献として1位にあげるのではないでしょうか。名古屋地裁交通部は赤い本を規準に算出しますが、青い本のほうが赤い本と比べて説明部分が充実していますので、通読するなら赤い本より青い本のほうがよいだろうと私は思います。多数の裁判を経験したあとに読むとまた新しい発見のある本で、改訂される度に通読をした方がよいです。
 ただなかなか開いてみると情報量が多く、通読しようとして途中で挫折し、治療費は得意だけど損益相殺は苦手という弁護士も多いのではないでしょうか。全5回ほどで友人とゼミを組み、発表担当者を決めて読み進めていけば、どうにか通読にまで至るのではないかと思います。

7 判例タイムズ社 「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版] 別冊判例タイムズ38号」
 青い本、赤い本と並び弁護士が読んでおく本として上位に挙げられる本です。しかし通読する本ではないように思います。前書きと各用語の説明部分は熟読し、その他の部分は斜め読みし、事案を経験しながら理解していけばよいだろうと思います。

8 東京弁護士会「こんなところでつまずかない!交通事故事件21のメソッド」
 先輩弁護士との雑談のなかで知るような豆知識が記載されています。保険会社は時効援用するのか、などがあり、さらりと読めますので一読をおすすめします。

9 高中正彦他「交通賠償のチェックポイント」
 交通事故の知識がコンパクトにまとまってあります。赤い本を濃縮し、また、あまり一般的な本には載っていない制度の枠組み等の記載もある良著だと思います。内容も正確で、筆者の専門性がかなり高い印象を受けます。

10 森冨義明他「裁判実務シリーズ9 交通関係訴訟の実務」
 通読すべき本かというとそこまでではないかもしれませんが、名古屋地裁交通部の裁判官とは、この本の記載を前提に会話を行うこともあり、私は書証として写しを提出することもよくある本です。どの論点が記載されているのか把握はしておいた方がよいです。

交通事故の本は多数存在しておりますが、まずは一般的な任意保険のルール、自賠責保険のルールを浅く広く理解することが大切です。参考にしてください。