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職場のハラスメント対策、できていますか。

1 弁護士に相談をする労働紛争のうち、訴訟になるものは、解雇や残業代など、お金に関するものが多いのが実情です。
2 しかし、示談交渉、行政の紛争解決援助、裁判所の調停手続は必ずしもそうではありません。平成26年度は、都道府県労働局長による紛争解決援助申立の受理件数のうち、約5割がセクハラに関する事案であったとの統計もあります。
3 自分の所属する会社に限ってそのようなことはない、と思いがちですが、しっかりとした対策が必要です。セクハラは、個々人の尊厳を傷つける許されない行為であることは当然ですが、企業にとっても秩序の維持や業務への支障につながり、社会的評価に悪影響を与えます。いったん紛争化すると、両当事者が退職にいたるなど、経営に与える影響も甚大です。
4 セクハラという言葉自体が多義的に捉えられがちですが、企業側としては、男女雇用機会均等法第11条の規程が、対策の出発点となります。
(1) セクハラとは「職場において行われる性的な言動」と定義づけされますが、「職場」には、取引先であったり、出張先も含まれます。勤務時間外の忘年会などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当します。現場の総務担当者、対策を検討する企業側としては、プライベートも含め「全てが職場にあたる」という気持ちで取り組んだ方がよいでしょう。
(2) また、同条文は、「労働者」への対応を事業主に求めておりますが、ここでいう労働者には、正社員のみではありません。また、派遣労働者については、派遣元だけではなく、派遣先事業主にも、自ら雇用する労働者と同様の対策、措置を講ずる必要があります。
(3) そして「性的な言動」は、事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、学校における生徒同士も、行為者になり得ます。さらには、女性から女性へ、男性から男性へ、女性から男性へ、それぞれ行われることもあります。「これはセクハラではない」との発想自体を捨てる必要があります。
5 セクハラについては、明確な判断基準がなく、違法か否かを検討するのは難しいものがあります。それでも行政や裁判所もできる限り客観的な基準を示そうと努力はしています。まず、意に反する身体的接触については、1回でも違法性が認定されると思った方がよいでしょう。また、身体接触がなくても、明確に抗議しているにもかかわらず放置された場合も違法性が認定される可能性が高まります。基準としては、被害者が女性の場合は「平均的な女性労働者の感じ方」が基準となり、被害を受けた労働者が男性である場合は「平均的な男性労働者の感じ方」が基準となります。
6 女性の側から声をかけてきたんだから、多少は仕方ないだろう、ちょっとぐらいの悪ふざけはコミュニケーションとして必要だ、という発想は、もう許されません。下ネタは全て許されません。また、独身同士のやり取り、純粋な恋愛感情をもったやり取りの場合、会社がどこまで関与するのかは非常に難しい問題です。しかし会社側としては、上下関係のある言動は、本人の意に反している可能性があるという前提で接するべきでしょう。
7 実際のセクハラの事案では、メール、Facebookのメッセージ、LINEでのやり取り、社内でクラウドで使用しているソフトなどが証拠として出されることが非常に多くあります。「好き」だとか、「かわいい」などの言葉や、LINEでいえばハートマーク、キスマークを送るなど、普通の会話ではおよそできないようなことが、セクハラ加害者が行うことがあります。これはパワハラも同様で、メッセージのやり取りが訴訟での主要な証拠となることは多々あります。
8 また、特にパワハラ事案では、会話が録音されていることもよくあります。近時はスマートフォンを一人一台持っておりますので、常に録音機がカバンに入っているのと同じ状態となります。訴訟で会話が録音された記録が出てくることも頻繁にあります。会話を録音することは、少なくともパワハラやセクハラの被害者の立場にあり、立証のためにやむを得ないものであるのなら、違法とはなりにくいものです。マスコミに持ち込まれたり、ユーチューブにアップされることもあり得ます。特に紛争が顕在化したあとの聴き取りなどは、会話は録音されていることを前提に、どこにだしても恥ずかしくない、公正な方策をとらなければなりません。
9 パワハラの場合、セクハラよりもさらに事例の集積が乏しく、判断が難しいところがあります。また、加害者が比較的売上げをあげる人物であったり、仕事の能力はある人物のこともあります。社長そのもののパワハラが問題とされることも珍しくありません。
10 全員に同じ態度なのか、特定個人に向けられたいわばいじめのようなものなのか、1回だけなのか継続的なのか、その言葉遣い、業務時間の内外などを総合考慮することになります。また、会社にいられなくなることで訴訟に発展するリスクはありますので、「○○なら辞めてしまえ」など、退職に関連する言葉で叱責することはパワハラとして問題になりやすいと言えるでしょう。厳しく指導をするとしても、必ず仕事に関連するしかり方をしなければいけません。
11 事業主は雇用管理上、方針を明確化し、職場に周知し、また、相談窓口を整備する必要があります。
まずは意識付けを行う必要があり、そのために、方針を明確化し、労働者に周知を行う必要があります。男女による仕事の区別も許されないこと、お酒の席でのお酌の強要も許されないことなどは、年代によって常識が異なります。まずは周知徹底が必要となります。
周知の方法として、従業員心得の配布、パンフレットの配布、年に一度の講習会などが考えられます。講習会も、役職別に行うなど実効性のあるものとするなど、工夫をすることが考えられます。
12 また、直接被害には遭っていない、一般的な制度の運用に対する相談にも対応する必要があります。性別役割分担意識に基づく言動や制度(女性だからお茶を出す、女性だから受付をするなど)も、まずは自らの常識が今の社会に合致していないのではないかと疑い、幅広く意見を募る必要があります。
13 この5年で採用環境は激変し、従業員を雇用することはとても大変になりました。個々の従業員を大切にできない企業は、仕事はあるけど働き手がいない、という状態となり、市場から淘汰される時代が来ます。
14 また、特徴的なことですが、労働事件は業界内では、「○○社事件」などと、企業名を付けて呼ぶ慣行があります。労働法の教科書や判例集でも、会社名がそのまま事件名として使われ、法学部に入る人は皆さん知ることになります。また、インターネットで会社名を検索すると当該判例がヒットすることがあります。その意味でも、紛争を起こさないこと、紛争が起きた際に適切に対応することが重要になります。
 例えば「L館事件」と呼ばれるセクハラに関連する裁判は、大阪の有名な施設に関する紛争です。最高裁判所が、セクハラの具体的な態様を判決文別紙に添付したことで有名となりました。この裁判はしっかりと読むと、実は会社側はセクハラ加害者に対して厳しい対応もしておりますので、セクハラそのものを防ぐこと、実際の紛争にそれをきちんと対応すること、その両方が必要となります。
15 紛争の特徴としては、やはり問題が生じた際の対応の善し悪しが、その後の流れを左右します。被害者、加害者からの平等な聴き取り、迅速な聴き取りが必要です。また加害者、被害者の早急な異動も必要となります。そして事実が存在した場合に、加害者側に適切な懲戒処分をくだす必要もあります。人事上の措置と懲戒処分を二つ科すことも、やり方にもよりますが、直ちに違法となるわけではありません。
16 懲戒処分としてどのようなものが適切か、という相談も企業から受けます。これは難しい判断です。暴力を伴うなど、客観的に犯罪行為にまで及んでいる場合は、解雇をすべき場面もあるでしょう。その手前といえる事案の場合、出勤停止、降格などを検討することになります。大きくはまず、解雇をすべきか否か、という判断で悩むことになります。解雇までに至った場合は労働者側(加害者側)も生活がかかっており、訴訟にて解雇の有効性を争う可能性はあります。降格や出勤停止については、訴訟リスクは高くはないですが、それでも生涯の給料が相当下がる場合があります。懲戒処分としての減給は10分の1の割合でしかできませんが、降格により反射的に減給する場合、それが必ずしも違法となるわけではありません。この点の適法性は、弁護士とも相談をしながら、過去の社内の事例、そして裁判例とも比較をしながら決めていく必要があります。
17 当事務所所属弁護士は、名古屋の一部上場企業の管理職を対象としたセミナーから、従業員数名規模の企業でのコーヒーを飲みながら行う勉強会まで、幅広くハラスメントセミナーを行っております。費用は行う内容や時間で相談させていただきますが、1回5万円~10万円程度です。お気軽にお問い合わせください。

 もちろん、実際の紛争対応も積極的に受任しております(労働者側、企業側の双方からの受任実績があります)。お困りの際は、遠慮なくお声がけください。