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控訴審で逆転できるか

1 弁護士をしていると、第1審でどうしても納得できない判決がでることがあります。この場合は控訴をして、控訴審での逆転を目指すことになります。
2 私が名古屋高等裁判所で結論を覆して頂いた例をいくつか抽象化してご紹介いたします。

ア 別居後数ヶ月後に不貞があった事案で、不貞慰謝料を請求いたしました。名古屋地方裁判所では、別居後数ヶ月後の時点で婚姻関係が破綻していたとして、慰謝料請求が棄却されました。
私は事案全体からみてこの程度では婚姻関係は破綻されたとは認定されないだろうと予想しておりました。
第1審判決後、再度、別居後の二人の生活を陳述書やクレジットカード明細等で整理し、別居後の婚姻関係破綻に関する裁判例との比較を表にして作成し提出いたしました。
その後、名古屋高等裁判所にて慰謝料請求を認容して頂きました。
本件は、第1審の裁判官の判断が特殊だった、と言わざるを得ない事案でしたが、裁判の結論予測の難しさを改めて知る事案でした。
イ 財産分与を求めている事案で、婚姻前の定期積金をどのように扱うかが争点となった事案でした。一昔前までは、離婚時の財産分与は「別居時の預貯金」から「婚姻時(あるいは同居時)の預貯金」の金額を差し引いて算出する、とされておりました。しかし近時の名古屋家庭裁判所は、婚姻期間が一定期間あれば、「別居時の預貯金額を2で割る」という運用をしており、婚姻時の預貯金を差し引かず計算をする傾向が顕著です。たまにしか離婚を扱わない弁護士は戸惑うこともあるのではないでしょうか。婚姻時の預貯金については、普通預金は差し引かれないことが多いのですが、まったく動かしていない婚姻時からある定期預金は差し引かれるのが通常です。
今回争点となったのは、普通預金と定期預金の間のような性質を持つ、定期積金の扱いでした。
定期積金は、出し入れ自体は自由にできるのですが、普通預金のように生活費の自動引き落とし口座にはできません。普通預金と同じ扱いにするのか、定期預金と同じ扱いにするのかが争点でした。
名古屋家庭裁判所では、定期積金も自由に引き出し生活費に充当できる点を重視し、普通預金と同様、婚姻時の残高を差し引かずに計算すべきだとの判決を出しました。
私は婚姻時に多額の残高がある定期積金を、離婚時に二人で分けるという結論が明らかにおかしいだろうと考え、控訴をいたしました。
あくまで理論的な争点なので新しい証拠を控訴審で提出したわけではありませんが、控訴理由書では、「結論がおかしい。落としどころとしておかしい」、という主張を延々と記載いたしました。
名古屋高等裁判所でも、定期積金は名古屋家庭裁判所と同様に、やはり普通預金と同様に考えるとの判断が示され、この争点では主張は認められませんでした。ところが、通常5:5とされる寄与度を修正し、判決文の最後の数行で、総合的に考慮をすると寄与度を当方6:相手方4に修正すべきと記載され、最後の数行で当方の主張に沿う結論を導いて頂くことができました。
ウ 債権回収の原告側の事案で、相手方の法人は事業を新会社に譲渡し、債務のみを残して法的な破産手続も取らずに放置をしている事案でした。そこで、新会社に対して債務を引き継いでいるだろうと主張し、訴訟を提起いたしました。名古屋地方裁判所では、別法人であることを理由に請求が棄却されましたが不当だと考え、控訴をいたしました。控訴理由書でも、いかに結論としておかしいか、を記載したところ、債務を引き受けたとの判断を頂くことができました。
エ 在留特別許可を求め争った事案で、国側の主張をそのまま採用した第1審判決を覆し、控訴審にて、あまりに道義に反する、日本にいてもいいだろう、との判決を頂くことができました。

3 この記事をお読みの方の中には、第1審判決でこれはおかしい、という判決となり、控訴審での逆転を目指す人もいらっしゃるかと思います。依頼者の立場からどう振る舞えばよいかは答えはありませんが、私なりの考えを記載します。
ア まず、弁護士を変更すべきかという問題に直面します。私の体感としては、第1審を担当した弁護士を信じて依頼を続けた方が、控訴審で逆転できる確率はあがるだろうと思います。第1審から継続して事情を把握している弁護士と、控訴審から担当する弁護士とでは情報量が違います。どのような優秀な弁護士でも、不本意な判決を受けることはあります。それまでの弁護士としての活動を見て、信頼してよいと思えるならば、依頼を継続したほうがよいことがどちらかといえば多いだろうと思います。
イ 法律論は弁護士に一任するしかありませんが、「結論が不当だ、常識的に考えておかしい」という点は、弁護士よりも依頼者のほうが詳細に分かっていることも多くあります。なぜ第1審判決に納得できないのかを深く自分なりに掘り下げ、弁護士に伝えるべきだろうと思います。但し、相手方の性格がひどい、という主張など、明らかに関係のないことを一生懸命書いても、結論に影響はありません。この取捨選択は難しいので、「法律論はともかく、結論が不当だ」という主張や、第1審判決に対して言いたいことを全て、Wordやテキストファイル形式にして担当弁護士にデータで渡し、「弁護士さんが必要と思うところを使って欲しい」と伝えるのが、担当弁護士としては助かります。
この点はどうみても関係ないかな、弁護士さんが困るかな、と思うこともあるかと思いますし、実際、これは関係ないな、と思うような主張もあるのですが、あまり遠慮していては、第1審判決を覆すことはできません。「主張の取捨選択を全て弁護士さんに一任する」と伝えたうえでなら、自分がおかしいと思うことをデータで弁護士さんにお渡しすることは、裁判にマイナスになることはありません。
ウ また、きちんと事案や問題点を伝えきっているかも再度確認をすべきです。交通事故の事故態様を争っているのならば、現場の地図を作る、ミニカーを使って再現をするなど、分かりやすく主張を作る必要があります。また、弁護士に分かってもらうのではなく、裁判所に分かってもらう必要がありますので、動画で撮影してCDにする、プリントアウトしてA4で提出できる形にするなど、担当弁護士にどのような形ならば裁判所に提出しやすいかを尋ねるべきです。
 私はよく、「素人でも分かるように」と依頼者に伝えます。控訴審裁判官は大量の案件を同時に抱えていますので、よく分からない単語や業界慣行を自分で調べてくれると期待してはいけません。よく分からないな、と思ったら、そのよく分からないところは参考にされずに判決が書かれると思った方がよいです。
一体何が問題なのか、なぜ第1審で負けたのかを自分で考えて、担当弁護士に伝えて、一緒に、一読して分かるように逆転に向けて書類作成を行います。
エ あとは、諦めないこと、が大切かと思います。前述の在留特別許可の適否を争った裁判では、第1審で不要として採用されなかった証人の申し出を、一応控訴審でも申し出てみましたら採用され、結論が覆りました。新たな証拠申し出や検証申し出など、何かできることがないか、担当弁護士と相談をすべきです。
オ 弁護士費用や実費という側面も、担当弁護士に率直に相談をしたほうがよいだろうと思います。弁護士の仕事は、ご依頼を頂いた段階ではどの程度時間や実費がかかるか見通しを立てにくく、事案によっては、弁護士が依頼者の経済事情に配慮して、お金のかかる立証方法を提案できないこともあります。交通事故の事故態様や、怪我をした場合の後遺障害の程度などが典型ですが、50万円かければ私的な鑑定を行える場合もあります。金銭面でのフォローができないかも、率直に相談をしてみた方がよいでしょう。
4 もちろん、うまくいく事案ばかりではありません。第1審敗訴後、全力を尽くして控訴理由書や新たな書証を提出しても、控訴審判決にてごく短く第1審判決がそのまま踏襲されることも珍しくありません。控訴審に至っても、結局は数人の裁判官だけで判断をするシステムであり、自分が真実と考えている主張が採用されないことも、残念ながらあります。白か黒か判断ができない事柄に1つの結論を示すのが民事の裁判ですし、裁判官も自分の判断が全て真実だと思って判決を書いているわけではありません。これはもう、控訴審での敗訴判決を受領したら、所詮は人間が決めるシステムとはこの程度のものだ、という心の割り切りが必要です(そうしないと、理不尽さに心の平穏が保てません)。

5 納得できない第1審判決を受け取った方はつらい思いをされているかと思いますし、簡単に覆るものでもありませんが、今まで共にたたかった弁護士さんとともに、今一度、頑張ってください。