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冤罪で逮捕される件数

弁護士 森田祥玄

1 弁護士業務を行っていると、冤罪で逮捕・勾留される事案に、定期的に出会います。統計があるわけではありませんし、捜査側が冤罪であったと認める案件はごく例外ですので、件数は分かりませんが、私個人としては、「明らかに冤罪で、身柄拘束を受けたうえで不起訴で終わる」、という案件を数年に1回は担当します。愛知県に私と同じような街弁が1500人いるとしたら、愛知県で年間500件~700件ほどは冤罪で逮捕されているというのが私の個人的な感覚です。
2 これを多いとみるか少ないとみるかは人によるかと思います。愛知県の交通事故死者数は、ピーク時は912人、最近は減少を続け令和元年は156名でした。また、年間1万人に1人が冤罪で逮捕されるとしたら、愛知県だとだいたい700件ほどになります。刑事弁護を主要業務とする弁護士のかたは桁が違うぐらいもっとある、という感覚かもしれません。
3 冤罪で逮捕された本人は、一体何が起こっているのか分かりません。私は接見室で、「冤罪で逮捕されることも結構ありますよ。この仕事をしているとよく出会いますよ。」とお伝えするのですが、そんな実態を普通の人は知らないものですので、ショックを受け、どう対応すればよいのか分からなくなります。決してそのような実態が報道されていないわけではなく、例えば2012年に起きたPC遠隔操作事件では、無実の人が4人逮捕され、しかもそのうち2人は無実なのに自白をしています。また、2010年には検察官が証拠を偽造し無実の人を有罪直前まで追い込んだ事件も報道されています。しかし、なかなか自分のことにならないと、意識されません。我が国に住む人は、誰もが冤罪による逮捕・勾留と隣あわせの生活を送っているのです。
4 令和2年3月はコロナウイルスの影響で、顧問先や友人、知人から相談が殺到し、私も休みなく働き続けていたのですが、そのような中でどうみても冤罪と思える、不要不急に逮捕された事案を担当させて頂きました。
5 逮捕の一報を聞き当日夜遅く接見に行きますと、「あぁ、これは完全に冤罪だ」という事案でした。接見室から出て、担当警察官に、どうしてこれで逮捕できるのだ、と抗議しますと、「逮捕は裁判官が認めたものだ」との回答でした。それはそうですね。裁判官には是非とも、冤罪での逮捕・勾留に抗議を受けた警察官は、「裁判官が認めたものだ」と反論をすることを知って頂きたいものです。
6 その後、裁判官に対して勾留すべきでないとの意見書を出し、勾留に対する準抗告、特別抗告、勾留理由開示、勾留延長に対する準抗告、特別抗告を行いましたが、結局身柄拘束は続き、最終的には不起訴処分で終わりました。
7 今回は勾留理由開示という、あまり行われない手続を行いました。裁判官は紋切り型の説明をするだけで意味のない手続だという意見もありますが、今回の裁判官は誠実に、世の中の人は誰もが犯罪を行った可能性がある、という程度の説明はしてくださいました。捜査側がどのような説明をしているのかを知ることはできますし、今回は、「本当にこれ以上証拠はないのだな」ということを知ることもできましたので、場合によっては申し立ててもよい手続だろうと思います。
8 なお、あまりにやり方がおかしいため、不起訴処分後に担当警察官に改めて抗議をしようとしましたら、担当者はこの春で異動になりました、との回答でした。異動前に案件を処理してしまう、ということだったのでしょうか。
9 依頼者のかたには、周りの人に、冤罪での逮捕というものが世の中には多数存することを説明して欲しい、との要望を受けており、このブログ記事を投稿いたしました。冤罪で逮捕される世の中であることは、警察も、検察官も、マスコミも、弁護士も、よく知っていることです。ロシアンルーレットのように一部の人が犠牲になります。職業や資産を問わず冤罪の犠牲になり得る点は公平とさえ言えるかもしれません。個々の警察官や裁判官が悪意を持っているわけではなく、誰が悪いのか、何を直せばいいのか分からないまま、そのような運用が続いております。まずは、多くの人にそのような実態があることは知って頂いた方がよいだろうと思います。