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著作物引用の基礎知識

弁護士 森田祥玄

顧問先や自営業者団体、士業等の専門家の団体などから弁護士に、著作権について簡単な講義をしてほしい、とのご要望を頂くことがあります。
その場合、その多くは、パンフレットやホームページを作成する際や、セミナーを開く際に、既存の著作物を利用してもよいのか、どのような引用方法なら許されるのか、という点に関心があります。
以下、Zoomでの表示用もかねて、45分程度でお話しすることを想定した講義用のレジュメを貼付いたします。
セミナーのご希望がございましたら、見積もりを出させて頂きますので、お気軽にお声がけください。


第1 著作権とは

著作権法第1条
「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」

第2 著作物とは

そもそも著作物に該当しないものなら、使用をしても著作権法上は適法となります。

著作権法2条1項1号
著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」

1 思想又は感情の表現

単なるデータ(平均気温や人口動態等)、歴史的事実は思想または感情の表現にはあたらないものとされています。

2 創作的

古文単語の語呂合わせ、交通標語について著作物ではないとした裁判例があります。日常的にありふれた表現、例えば時候の挨拶文もこの要件に該当しないものとされます。

3 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの

知的、文化的精神活動全般がこれらに含まれるとされており、この範囲は広いものです。

第3 著作物に該当するものの具体的

著作権法10条
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物

2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。

※新聞記事は単なる事実を伝えるだけの記事ならば10条2項に該当します。しかしある程度の長さのある記事は著作物として保護される可能性が高く、基本的には著作物に該当すると考えた方が安全です。

第4 権利の目的とならない著作物

著作権法13条
次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
一 憲法その他の法令
二 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人(略)又は地方独立行政法人(略)が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの

※但し、編集著作物(著作権法12条1項)にあたる場合があり、注意が必要です。例えば判例をまとめた雑誌等。

著作権法12条1項 編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。

第5 著作権の保護期間

著作権法第51条
1 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)70年を経過するまでの間、存続する。

なお、第52条も参照。

第6 著作権を利用できる場合1 著作権者の承諾

原則として著作権者の許諾が必要ですので、まずは著作権者の承諾を取ることができるかを検討してください。
出版契約、映画製作契約、利用契約等。

第7 著作権を利用できる場合2 私的使用のための複製

 
個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限りの範囲内で使用する目的で複製することは、可能とされています。但し、著作権法30条1項各号の例外も重要。

30条1項2号→コピーガードをあえて外して複製する場合
30条1項3号→違法にアップロードされた映画・音楽を違法にアップロードされたと知りながらダウンロードする場合
30条1項4号→違法にアップロードされた映画・音楽以外の著作物(漫画・書籍・論文・コンピュータプログラム等)をダウンロードする場合

社内での研修利用でも私的使用には該当しないものとされる。
自宅でのテレビ番組の録画や、自分で購入した書籍のPDF化など、ごくプライベートな利用に限られると考えたほうがよい。

第8 著作権を利用できる場合3 適法に引用する場合

著作権法第32条 
1 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

判例は明瞭区別性と、主従関係が必要とする。

1 明瞭区別性

  
引用部分と自己の著作物とが明瞭に区別されることが必要です。カギ括弧ではさむ、文字を斜体にするなど、引用であることが明確に分かるようにする必要があります。

2 主従関係

自己の著作物が主であり、引用する他人の著作物が従でなければならないとされています。
単に分量で決まるわけではなく、引用の目的、両著作物の性質、分量等を総合考慮によって決するとされています。
あえて目安があるとしたら引用部分が全体の1割以内、という考え方がありますが、ケースバイケースと言わざるを得ません。

3 出所明示義務

引用に際しては、引用されて利用される著作物について、その出所を明示しなければならない、とされています。 その本の名前やWebサイトのURLを明記する必要があります。

4 必要性

その著作物を引用する必要性が本当にあることも要件となります。
条文上、「公正な慣行」に合致したものであり、かつ、「正当な範囲内」であることが求められており、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない、とされています。

第9 引用例

1 ウェブサイトから引用する場合

愛知さくら法律事務所では、弁護士にとっての裁判業務について、

「情報化社会の中においても裁判実務は未だ定型化が難しく、ノウハウも公開されず、経験や研鑽によってのみ成長できる分野」
(出典:愛知さくら法律事務所ホームページ
http://www.aichisakura-law.com/practice/p02/

と記載する。

のように、引用部分をカギ括弧等で区分し、ウェブサイト名とURLを明記します。

2 書籍から引用する場合

「書籍から引用する場合も、ウェブサイトと同様の、カギ括弧でくくり、出典を明示する。出典の明示方法は、大学生向けの論文の書き方を記した文献等が参考になる」

(出典:著者名・書名(出版社・出版年度))

Q:図表、絵、漫画のコマも引用できるでしょうか?

A:引用の要件を満たしていれば法律上は可能です。 しかし、特に絵や漫画を引用する場合、一般的な文字の引用に比べ必要性や主従関係の要件を満たさない場合も多いだろうと思われます。絵や漫画については引用する慣行があるとも言い難く、安易な引用は避けるべきです。

第10 著作権を利用できる場合4 その他

検討過程の利用、図書館等における複製、教育目的のための使用、営利を目的としない上演、裁判手続における複製等。

第11 まとめ

□引用の要件を満たせば使用できるため、極端な萎縮をする必要はありません。
□ただし、どこからがセーフ、どこからがアウトとはいいにくいのが実情です。できる限り著作権者に同意を頂けるよう努力すべきです。
□公正な慣行による方法で、目的上正当な範囲内という条文の文言からも明らかなように、社会通念や常識によって決まる要素も大きいものです。引用元への誠意・リスペクトをもてば、大きな紛争になることはないだろうと思います。