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相続土地国庫帰属制度

弁護士 森田祥玄

 相続をした土地を手放したいと考える方は増加しており、管理をしきれていない土地も多くあります。
 そこで、相続をした利用しない土地を手放す制度、相続土地国庫帰属制度が始まりました。

1 相続の原則

 相続をする際には、プラスの財産だけ相続をして、マイナスの財産を相続しない、ということはできません。預貯金はたくさんあるので相続をしたい、しかし不動産は管理も処分もできないので相続はしたくない、という要望は叶わない制度となっています。

2 相続放棄との違い

 相続放棄という制度があります。

 相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も、全て放棄する、という制度です。不動産を相続しなくてもすみますが、預貯金などのプラスの財産も相続できなくなります。

 相続放棄は「相続の開始があったことを知った時」から3カ月以内に行う必要があります(民法915条1項本文)。 不動産がある場合、相続する不動産がどの程度の負担となるのか、相続の段階では把握できないことも多く、相続放棄を選択しない、できない人も多くいます。

3 相続土地国庫帰属制度がはじまるまでの対応

 以前から、相続をした土地を手放したい、という相談は多くありました。
 このような場合、まずは、地元の不動産業者に相談をして、買い手を探して頂くことになります。0円に近い値段で買い手が見つかることもあります。一定額の費用を支払うことで引き取って頂けることもあります。

 また、買い手がみつからなくても、地方自治体が寄付を受け付けていることもあります。地方自治体に土地を寄付したい場合、各地方自治体の担当窓口へ相談をしてください。地方自治体が寄付を受けても良いと判断をしたら、必要書類を自治体に提出することで寄付を行うことができます。
 ほかには、有効活用してくれるかたを探し、贈与をすることが考えられます。農地の場合は農業委員会事務局に活用方法がないか、利用を希望している人がいないか相談をします。森林の場合は森林が所在している市町村の担当窓口に相談をします。いわゆるランドバンク事業を行う民間事業者にも相談をしてください。

 これらの方法でも手放すことができない場合、相続土地国庫帰属制度の活用を検討します。

4 まずは事前相談

 原則として、国庫に帰属させたい土地のある法務局で、相談の予約をお取りください。相談対応だけなら、お近くの法務局でも行われており、簡単な制度概要の説明ならば電話での相談も可能です。

 法務局のホームページでは、法務局手続案内予約サービスが提供されており、インターネットでも予約を取ることもできます。

 相談される際は、登記事項証明書や、地図、公図、地積測量図、その他土地の測量図面、土地の写真や地図など、現在の状況が分かる書類を持参してください。

5 申請権者

 この制度は、相続または遺贈(相続人に対する遺贈)により土地を取得した人が使える制度です。単に不要な土地がある、というだけでは使えません。また、相続人ではない人が、贈与や遺贈(遺言)などで土地を取得したような場合も使えません。

 相続をした人ならば、いつ相続をしたかは問いません。先祖代々相続をしてきた土地を抱えて困っている人なら、使うことができます。

 相続登記をしていなくても申請自体は受け付けますが、所有者であることを証する書面(戸籍事項証明書等や遺産分割協議書等)を添付する必要があります。

 土地を相続した人なら、単独所有ではなくても、共有者全員で申請をすれば、この制度を使うことができます。他の共有者が相続以外の原因により持ち分を取得した場合であっても、相続により所有権の一部を取得した共有者が含まれていたら、共有者全員の申請があればこの制度を使うことができます。共有関係の不動産でも利用できる点は、この制度の大きな特徴といえます。

6 申請書の作成と提出

 相談を行い制度概要を把握されましたら、申請書を作成します。必要な添付書類を確認し、提出前に法務局に形式的な不備がないかのチェックを受けてください。必要な添付書類は、申請者の印鑑証明書、固定資産税評価証明書、境界等に関する資料、現地の地図などとされております。

 書類に問題がなさそうでしたら、必要な収入印紙を貼り(土地1筆あたり1万4000円)、不動産が所在する土地を管轄する法務局の窓口に提出をします。郵送での申請も可能です。法務局のホームページには、申請前に事前に電話で連絡が欲しい、と記載されていますので、事前に書類を送付すると電話をした方がスムーズです。なお、申請後は、却下や不承認になった場合であっても、手数料は返還されません。

 手続の代理が認められるのは、法定代理人(成年後見人も含む)のほかは、弁護士、司法書士、行政書士に限られます。

7 法務局における要件の審査

 法務局に書類が提出されましたら、法務局にて要件の審査が行われます。実際に土地に出向いて、現地の調査も行われます。場合によっては現地の調査に同行を求められることもあります。

 法務局は、地方公共団体にこのような申請があったことを情報提供し、土地の寄付の受付けや、地域での有効活用の方策がないかを検討する機会を確保するとされています。

 申請から帰属の決定までに半年から1年程度要します。この間に申請者が亡くなった場合は、相続人が、相続等があった日から60日以内に申請先の法務局に申し出ることで、申請手続を継続することができます。

8 却下事由に該当する土地

 どのような不動産でもこの制度を使うことができるわけではありません。次のような土地については、国庫帰属ができません。

・建物が建っている土地
・抵当権などの担保権や、賃借権などの使用収益権が設定されている土地
・他人の使用が予定される土地
・土壌が汚染されている土地
・境界で明らかではない土地
・所有権の存否、帰属、範囲について争いのある土地

 却下事由に該当する場合であっても、弁護士に依頼をすることで解決できることがあります。例えば、古い抵当権が残存していて、抵当権者である法人が既に消滅をしていたり、個人であっても既に亡くなっていて、消すことができないような場合、弁護士が供託や訴訟手続を行うことで抵当権を抹消できることがあります。

 また、所有権や境界などで争いがある場合、弁護士に依頼し争いを解決することで、当該却下事由を解決できることがあります。

9 不承認事由に該当する土地

・崖のある土地
・工作物、車両または樹木その他有体物が存する土地
・除去が必要な有体物が地下に存する土地
・隣地所有者と交渉の必要がある土地
・現に使用または収益が妨害されている土地
・そのほか、通常の管理又は処分をするにあたり過分の費用又は労力を要する土地

 不承認事由がある場合であっても、やはり弁護士に依頼をすることで不承認事由を取り除くことができることがあります。

 土地上に所有者不明車両が残存している場合や、隣地所有者との交渉については、弁護士が交渉や訴訟手続を使うことで解決できることがあります。

 農地につきましては賦課金(水利費等)が発生することが多いかと思います。また、別荘地につきましては毎年管理費用が発生することがあります。このような、一定額の支払いが定期的に発生する土地は、不承認事由とされております。このような土地を国庫帰属させたいとの需要は多いでしょうから、今後の運用を注視する必要があります。

 また、不承認事由については、結局は通常の管理または処分をするのに過分の費用や労力を要するかどうかで決まりますので、法務局の定める要件や実務的な運用を把握・情報収集し、適切に説明をしていくことも重要となります。

10 事実を偽って申請をした場合

 これらの却下事由または不承認事由が存在する土地について、事実を偽ったり、不正な手段によって承認を受けたことが後に判明した場合は、その承認は取り消されます。この場合、納付した負担金も還付されません。

 条文上(法第13条1項)は、「偽りその他不正の手段により」「承認を受けた」と記載されており、故意に(わざと)黙っていたような場面が想定されています。 ただし、「不正の手段」という解釈の余地も残る条文になっておりますので、重大な過失があったような場合にもこれに該当すると認定される可能性はあります。なお、国に損害が生じた場合は、申請者が損害賠償責任を負うこともあります(法14条)。

 例えば地中に建築廃棄物(ガラ)や浄水槽、水道管等があることを知っておきながら伝えなかった場合、などが想定されます。ほかには、定期的に発生する負担金や費用があることを知っておきながら告げなかった場合にも、承認が取り消されるリスクがあります。

11 負担金の納付

 法務局の審査が終わりましたら、承認、不承認という結果の通知が、法務局から届きます。

 承認された場合、通知に記載されている負担金額を、負担金の通知が到達した翌日から30日以内に、日本銀行(あるいは銀行、ゆうちょ銀行、信用金庫、農協・漁協等の代理店)に納付します。

 負担金が期限内に納付されなければ、承認が失効し、最初から申請をし直すことになります。

12 負担金の金額

 負担金の金額は、10年分の土地費管理費に相当する金額、とされています。負担金の金額は、一筆20万円が基準となります。しかし土地の種目や面積、土地が所在する地域に応じて面積単位で負担金を算定する場合もあります。法務省のホームページに負担金の自動計算シートが掲載されていますので、概算は当該シートで確認することが出来ます。

13 合算負担金の申出

 隣接する二筆以上の土地のいずれもが同一の土地区分である場合、申出をすることで、それらを一筆の土地とみなして負担金を算定することができます。この申出は、隣接土地の所有者同士が共同して行えば、申請者が異なる場合でも可能とされています。

14 国庫への帰属

 負担金を納付した時点で、土地の所有権が国に移転します。なお、所有権移転登記は国において実施します。国庫に帰属した土地は、国が管理・処分をします。

15 まとめ 

 以上のような手続を経て、相続した土地を国庫に帰属させることができます。却下事由や承認事由の精査や、事務的な申請書作成のサポートについては、弁護士・司法書士・行政書士のみが代理可能とされております。また、申請の過程で生じるトラブルの解決は弁護士でなければ対応が難しいものもございます。

 ご相談がございましたら遠慮なくご連絡ください。