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改正民法における主観的要件について (民法改正 弁護士・法律学習者向け)



民法総則の「意思表示」の節ところでは、旧民法において、条文上は「善意」としか書かれていないところで、「無過失」まで必要なのか、「無重過失」でいいのか、「善意」で足りるのか、など論点があり、司法試験受験生はそれを覚えるのが面倒でした。


改正民法では、この主観的要件について、条文上で明確に書き分けてくれています。


例えば、錯誤取消しのときの第三者保護に関する規定(95条4項)では、以下のとおり「善意でかつ過失がない」とはっきりと書いてくれています。

第95条4項 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。


また、詐欺取消しのときの第三者保護に関する規定(96条3項)でも、以下のとおり「善意でかつ過失がない」とはっきり書いてくれています。

第96条3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。


その一方で、心裡留保の第三者保護に関する規定(93条2項)では、 単に、「善意」としか書いていません。

93条2項 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。


このように、条文上、「善意」と「善意でかつ過失がない」という風に書き分けられていることから、93条2項の心裡留保の場合には、相手方は、過失があっても「善意」であれば保護してもらえることが分かります(前々回のブログで書いたように、自分で心裡留保したような表意者よりも、第三者を保護してあげる要請の方が強いから)。


以上のとおり、民法総則の意思表示のところは、主観的要件が条文上で使い分けられるようになりましたので、受験生的には覚えることが減って楽になりました!

ただし、類推適用で使っていく場面では、やはり論証をして、動的安全と静的安全のバランスを調整して主観的要件を決めて行く必要があるのだと思います。
そのため、表意者の保護か第三者の保護か、という利益調整の感覚や考え方については、しっかりと身につけておく必要があります。

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詐欺 (民法改正 弁護士・法律学習者向け)



こちらもそこまで改正はないですが、一応、詐欺(民法96条)もやっておきます。



96条1項~3項のうち、第三者の詐欺についての2項と、第三者保護規定の3項についてそれぞれ改正がされています。

(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。


2項と3項について、主観的要件が、改正前の民法から変わっていますので覚えておきましょう。




【96条2項 第三者の詐欺】

第三者の詐欺とは、CさんがAさんを騙したため、騙されたAさんがBさんに対して瑕疵のある意思表示をしてしまった場合です。

このとき、旧民法では、AさんがCさんに騙されていることをBさんが「その事実を知っていたときに限り」(旧民法96条2項)、Aさんは意思表示を取り消せるとされていました。

ただ、Aさんは、Bさんに対して、「私が騙されていたのを、あなたも知っていただろ」ということを証明しないと取り消せませんでしたので、やや厳しすぎると言われていました。

そこで、Bさんが「知っていた」(悪意の)場合だけでなく、Bさんに過失がある場合にも、Aさんは取り消せるようにしました。

それが96条2項です。


96条2項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。




【第三者保護規定 96条3項】

詐欺による意思表示を前提として、新たに法律上の利害関係に入った者がいた場合、詐欺で取り消したことを、その第三者に対抗できるかという問題です。

このとき、第三者が保護されるための主観的要件について、旧民法では、条文上は「善意」とだけ規定されており、解釈としても無過失までは要求しないとも考えられていました。


旧96条3項「前2項の規定による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない」



これについて、「善意無過失」まで求めるんだということで、条文上明記されました。

つまり、第三者としては、保護してもらうために善意無過失まで必要になったのです。


96条3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

表意者は、詐欺の被害者で帰責性が小さいため、第三者を保護してやるために求める要件を厳格なものとした訳です。


96条の詐欺についての改正は、これだけです。




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心裡留保 (民法改正 弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文



たいした改正もないですが、一応、心裡留保(民法93条)もやっておきます。

心裡留保とは、表示行為が内心的効果意思と異なって解されることを、表意者が承知しながらする意思表示のことを言います。

本当はそんなお金も気持ちもないのに、「1兆円あげるよ」という場合ですね。



心裡留保の意思表示がされた場合、相手方の主観によって、その意思表示が無効になるかどうか変わってきます(93条1項)。

(心裡留保)
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。




さて、改正との関係では、このときの相手方の主観の対象について、条文上の表現が変わっています。

旧民法では、「ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする」となっていました。

しかしながら、「表意者の真意」の内容まで知らんよ、人の心なんぞ読めないし、という突っ込みが入れられていたところで、実際には、表意者が自分の真意とは違う意思表示をしてるな~(本当は「1兆円」なんてくれる気ないだろうな)、心裡留保してるな~、ということについて認識または認識可能性があればよいとされていました。

このことを明文化するために、新民法では、相手方の認識の対象が、「真意」ではなく、「その意思表示が表意者の真意ではないこと」という形で書き換えられています。

93条1項但し書 「ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」



あとは、93条に新しく2項が新設され、第三者保護の規定が設けられました!

心裡留保無効となったとき、その無効を第三者に対抗できるか…、という場合に、従前は民法94条2項を類推適用していました。

しかし、なんと、93条2項が新設されましたので、もうわざわざ94条2項を類推適用する必要がなくなりました!!

司法試験受験生が好きだった論点が1つなくなってしまった訳です。

93条2項 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。


このときの第三者の主観的要件は、「善意」で足ります。

自分から真意でない意思表示をするような面倒くさい表意者ですから、第三者保護のための要件は緩めとなっています。

93条の心裡留保関係はこれだけです。

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錯誤2 (民法改正 弁護士・法律学習者向け)



重要な改正のあった「錯誤」について、2つの類型の錯誤が明文化されたとお伝えしました。

95条1項1号は、「意思欠缺の錯誤」です。従来からの一般的な錯誤です。

同2号が、いわゆる「動機の錯誤」(基礎事情の錯誤)です。

認められるための要件の内容は前回お伝えをしましたので、各錯誤の類型ごとに要件を整理すると、以下のとおりとなります。


【95条1項1号、意思欠缺の錯誤の要件】

1)意思表示に対応する意思を欠く(95条1項1号)
2)その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること(95条1項柱書)


【95条1項2号、動機の錯誤の要件】

1)表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反すること(95条1項2号)
2)その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること(95条1項柱書)
3)その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと(95条2項)



さて、錯誤が認められた場合の「効果」はというと、無効ではなく、「取消し」へと改められました。

(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

改正前から判例は、錯誤無効を「取消的無効」であると考えていましたが、この判例通説が反映された改正となっています。


また、これにともない、詐欺取消しの場合と同様に、取消し前に取引に入った第三者を保護するための規定を設けました。それが95条4項です。

95条4項 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

明文で、第三者の「善意無過失」まで求めています。

錯誤は心裡留保や虚偽表示に比べれば表意者の帰責性が小さいため、第三者の保護のための要件を無過失まで求めて厳しくしている訳です。


そんな錯誤取消しですが、従来通り、表意者に「重過失」がある場合には、取消しの主張が制限されることになります。

旧民法では、95条但し書で「ただし、表意者に重大な過失があったときは…」と規定されていましたが、改正民法では新たに3項として独立して規定されています。

95条3項 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

この条文の規定ぶりから分かるように、表意者による錯誤取消しの主張に対して、相手方はいわば抗弁として、この95条3項柱書に基づき「重過失があるから取消しができない」と主張することになります。

そして、その再抗弁的な位置づけで、95条3項1号及び2号があります。

1号は、相手方の悪意重過失です。
表意者に重過失がある場合には錯誤取消しを認めないのは、相手方の取引の安全を保護するためですが、その相手方が悪意重過失ならば保護に値しないからです。

そして2号は、いわゆる共通錯誤の場合です。このときもお互いに錯誤に陥っていた訳で、取り消して話を白紙に戻しても相手方としても仕方ない訳です。

錯誤については、「無効」から「取消し」になった以外、従来の判例や通説が条文化されただけですので、条文を読めば問題なく対応できるかと思います。

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錯誤 (民法改正 弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文


重要な改正のあった、「錯誤」についてです。


重要な改正と言いましたが、内容は簡単です。

ポイントは2つ。

1)いわゆる「動機の錯誤」が明文化されたこと

2)効果が「無効」ではなく「取消し」になったこと


です。


それぞれについて簡単にコメントします。

まず、従来から認められていた「動機の錯誤」の判例法理が明文化されました。


そのため、「錯誤」については、明文で2つの類型の錯誤が認められることになりました。
それが、民法95条1項の1号と2号です。


(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

1号は、「意思欠缺の錯誤」です。従来からの一般的な錯誤です。
 
2号が、いわゆる「動機の錯誤」(基礎事情の錯誤)です。
 

95条1項柱書にある、「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」とは、旧民法における「法律行為の要素に錯誤があったとき」(要素の錯誤)を言い換えたものです。
 

「要素の錯誤」の定義は、
 表意者が意思表示の内容の主要な部分とし、この点について錯誤がなかったら、表意者は意思表示をしなかったであろうし、意思表示をしないことが一般取引の通念に照らして至当
というもので、司法試験受験生は皆さん暗記していました。

上記95条1項柱書の「重要なもの」という要件は、この「要素の錯誤」の内容を言い換えたものですので、基本的には従来の考え方で大丈夫なようです。

つまり、錯誤がなければ、本人も一般人も、意思表示をしなかったであろう場合ということです。

 

この「重要なもの」という要件については、条文の柱書に規定されていますので、95条1項1号の「意思欠缺の錯誤」の場合でも、2号の「動機の錯誤」の場合でも、いずれでも必要になります。
 

また、2号の「動機の錯誤」については、従来の判例通説どおり、動機が表示されたことが必要となります。
 

ここでいう「表示」とは、単に“動機を口に出していた”というだけではだめで、従来の判例通説どおり、基礎事情が法律行為の内容になっていたことが必要です(「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」)。

95条2項 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。


 
長くなってきたので、続きます。

次回、各錯誤の類型ごとに、要件を整理します。

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無効・取消し(民法改正、弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文


次は、民法総則の「無効及び取消し」の条文についてです。

意思表示の瑕疵などにより法律行為が取り消されると、取り消された行為は、はじめから無効であったものとみなされます。

このことは民法121条で規定されており、旧民法から条文はあまり変わっていません。

(取消しの効果)
第121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。


さて、法律行為が最初から無効であったり、取り消されて最初から無効になった場合、原状回復をどうするかという点についてです。

この無効・取消しの場合の効果についての条文がなかったため、以前までは、不当利得に関する民法703条、同704条を使用していました(大判大3.5.16)。

改正民法では、この部分について枝番で条文が新設されました。
それが、民法121条の2です。

民法121条の2 第1項 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。


原状回復について、今後は703条・704条ではなく、民法121条の2 第1項を使います。 司法試験の論文試験などでは条文の引用を間違わないように注意が必要です。
 


そして、試験対策的には、民法121条の2 第2項が重要です。

 

この条文では、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者について、返還義務の範囲を修正し、善意の給付受領者の返還義務が現存利益に限定されています。

 
無効な無償行為とは、例えば贈与が無効だった場合などです。
この場合には、無効について善意だった者は、現存利益の返還で足ります

民法121の2 第2項 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。


 

「無効な無償行為」の「善意の受益者」は、覚えておきましょう。

これ、逆に言えば、いくら善意であったとしても、有償行為については、現存利益の返還だけでは足らないということですので注意が必要です。


703条の不当利得の場合、善意者ならば現存利益の返還だけでよかったはずですので、その意味で121条の2は、不当利得に関する703条・704条の特則的な規定です。

 

この民法121条の2は、司法試験受験生の短答式試験的には必須だと思います。
 

(原状回復の義務)
第121条の2 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

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時効の更新・完成猶予について4(弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文


 さらに、時効の完成猶予事由及び更新事由です。

【催告による時効の完成猶予】


 「催告」については旧法と変わりません。

 催告は、権利者が権利行使の意思を明らかにしたに過ぎませんので、6か月の完成猶予が認められるだけです(民法150条1項)。

 そして、催告による完成猶予されている間の再度の催告は、時効完成猶予の効力を持ちません(民法150条2項)。法律学習者であれば誰でも知っている判例法理(大判大正8年6月30日)が明文化されたものです。

(催告による時効の完成猶予)
第150条 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。


【協議を行う旨の合意による時効の完成猶予】


 「協議の合意」という新しい制度です。

 権利についての協議を行う旨の合意書面でされたときは、権利者が権利行使の意思を明らかにしている訳ですので、時効の完成猶予です。

 ポイントは、「書面で」の合意という部分です。


 猶予期間は、①合意から1年が経過するまで、②1年より短い期間を定めたときはその期間が経過するまで、③途中で協議続行の拒絶通知をしたときはその通知の時から6か月が経過するまで、のうちいずれか早いときまでです。


 協議の合意の期間中に、再度の合意によってさらに完成猶予ができますが、最長は5年までです。

 面白いのは、催告によって時効の完成が猶予されている間に協議合意をしても、その協議合意により時効の完成は猶予されませんので注意が必要です。

 このあたりは、前述した催告中の再度の催告と同じイメージです。

(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第151条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
(以下省略)


【承認による時効の更新】

 条文の順番にお話してきたら、一番当たり前のことが一番最後になってしまいなした。
 当然ながら債務者による「承認」時効の更新事由です。
 債務者が、債権債務の存在を認めて権利の存在についてひとまずの確証が得られている訳ですから、時効の更新事由となるわけです。

(承認による時効の更新)
第152条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。

 長くなってしまいました。

 以上でお話ししたように、時効の「完成猶予」と「更新」については、
「権利者が権利行使の意思を明らかにした」と評価できる事実が生じた場合が完成猶予とし、「権利の存在について確証が得られた」と評価できる事実が生じた場合が更新
というイメージで押さえておくと、頭に入りやすいのではないかと思います。

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時効の更新・完成猶予について3(弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文

 前の記事で、改正民法では、権利者が権利行使の意思を明らかにしたと評価できる事実が生じた場合を完成猶予事由とし、権利の存在について確証が得られたと評価できる事実が生じた場合を更新事由とした、というお話をしました。


 では、裁判上の請求以外の完成猶予事由及び更新事由も見てみましょう。


【強制執行等による時効の完成猶予及び更新】

 これも裁判上の請求と同じです。

 強制執行等の手続を行うと、終了するまでの間は、時効の完成が猶予されます(民法148条1項「…時効は、完成しない。」)
 そして、強制執行等の手続が終了し、権利の満足が得られなかったときは、時効は終了した時から新たにその進行を始めます更新)。

 また、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過するまでの間は時効の完成猶予です。
 確かに、預金口座の差押えをしたものの口座残高が振込手数料にも満たなかったため取り下げる…などといったことはあり得ますね。

(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)
第148条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。


【仮差押え等による時効の完成猶予】

 仮差押え仮処分は、手続が終了しても時効の更新の効果はなく6か月の時効の完成猶予のみです。
 これらの保全処分はその後の本訴提起を予定する手続であるため、6か月の間にさっさと本訴提起をして、民法147条の裁判上の請求で時効の完成猶予、更新をしてくださいという意味ですね。

 なお、旧民法147条ですと、1)請求、2)差押え、仮差押え又は仮処分、3)承認 が規定され、差押えと同じく仮差押え及び仮処分も時効中断事由になっていたので注意が必要です。(「時効を精査しよう(請・差・承)」と語呂合わせで覚えたものです。)
 仮差押え及び仮処分には、差押えのような時効の更新の効果は認められなくなりました。
 あくまで“仮”の手続であり、権利の存在について確証が得られる訳ではないですからね。 

(仮差押え等による時効の完成猶予)
第149条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分



 長くなってきたので、次へ続きます。

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時効の更新・完成猶予について2(弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文

 改正民法において時効の「完成猶予」及び「更新」を理解するポイントは、旧法で勉強したときの、「あれは中断、これは停止…」という知識を、とりあえず一回すべて忘れてみるのが良いのではないか、というお話をしました。

 「完成猶予」とは、時効の完成が一時猶予されることです。
 「更新」とは、進行していた時効期間の経過がリセットされて新たにゼロから進行を始めるという効果をいいます。

 さて、ではこれらの概念とそれぞれが生じる事由について、どのように理解をしておけばよいでしょうか?
 簡単です。

 改正民法では、原則として、権利者が権利行使の意思を明らかにしたと評価できる事実が生じた場合を 完成猶予事由 としました。
 そして、権利の存在について確証が得られたと評価できる事実が生じた場合を 更新事由 としました。


 例えば、訴訟提起(いわゆる「裁判上の請求」)をした場合、訴えの提起のみだと、ただ権利者が権利行使の意思を明らかにしただけなので、「完成猶予」のみにとどまります(民法147条1項「…時効は、完成しない」)。
 一方、訴訟が進行して判決が出され、権利者の権利が判決で確定された場合には、権利の存在について確証が得られることになる訳ですので、時効が「更新」されるにいたります(民法147条2項「…時効は、…新たにその進行を始める」)。
 分かりやすいですね。

 では、訴え提起をして時効が「完成猶予」されたものの、やっぱり止めたと言って訴えを取り下げてしまった場合はどうなるでしょうか?

 権利者の権利が判決で確定されないままで訴訟が終わってしまった訳ですが、この場合には、その終了の時から6か月を経過するまでの間は時効の完成が猶予されます(民法147条1項柱書かっこ書き)。
 いわゆる「裁判上の催告」という判例法理(最判昭和45年9月10日)が明文化されただけのものです。

(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第147条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

 では、以上に述べたこともふまえながら、他の完成猶予事由及び更新事由も見てみましょう。

 次の記事に続きます。

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時効の更新・完成猶予について1(弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文

 一般の方というよりは、弁護士や法律学習者向けの記事になります。

 2020年4月施行の改正民法で登場した新しい概念として、「時効の更新」「時効の完成猶予」があります。
 分かりやすくなったのですが、旧民法を勉強されていた方からすると逆に混乱してしまうかもしれません。
 その原因は、「時効の『中断』が『更新』に、『停止』が『完成猶予』に改められた」等と解説している書籍があるためです。
 旧民法における中断・停止の概念と、改正民法における更新・完成猶予の概念を結びつけて理解しようとするのが失敗のもとなのですね。

 改正民法を作成した方々による書籍「一問一答 民法(債権関係)改正」の記載を要約すると、以下のとおりです。

・旧法における中断には、時効が完成すべき時が到来しても時効の完成が猶予されるという「完成猶予」の効果と、時効期間の経過が無意味なものとなり新たに零から時効期間を進行させる「更新」の効果とがあった。
・しかし、旧法は、これらの異なる効果を合わせて「中断」という一つの概念を用いていたため、意味内容が理解しにくかった。
・また、債務者が権利を紹介した場合には「更新」の効果のみが生ずるが、履行の催告は「完成猶予」の効果のみが生ずるなど、多岐にわたる中断事由の中には、時効の「完成猶予」の効果と「更新」の効果のいずれか一方が生ずるにとどまるものもあったため、中断の概念の理解は困難なものとなっていた。
・そこで、新法においては、時効の中断について、その効果に着目して時効の「完成猶予」と「更新」というその効果の内容を端的に表現する二つの概念で【再構築】した。
・また、時効の停止についても、その効果の内容を端的に表現する「完成猶予」という概念で【再構築】した。

 つまり、時効の「完成猶予」と「更新」という概念は、新たに【再構築】された概念なのです。
 だから、旧民法における時効の「中断」や「停止」と関連付けて理解しようとすると、こんがらがってしまう訳です。

 ですので、改正民法において時効の「完成猶予」及び「更新」を理解するポイントは、旧法で勉強したときの、「あれは中断、これは停止…」という知識を、とりあえず一回すべて忘れてみるということだったりします。

 次の記事に続きます。

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