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【弁護士向け】事務所移籍時の諸手続

弁護士 森田祥玄

 私は名古屋にある弁護士法人から、ご縁を頂き、現在の愛知さくら法律事務所に籍を移させていただきました。大変幸運なことでしたし、受け入れてくださった皆さまに感謝しております。

 ニッチな需要かと思いますが、備忘録を兼ねて弁護士法人(やインハウス)から法人ではない既存の事務所への移籍を考えている弁護士向けに投稿をしておきます。地域によって対応は異なるようですので、愛知県弁護士会(それも名古屋近辺)に限られる話かもしれません。

1 退職半年前
 弁護士法人に退職をすることを伝え、引き継ぐ事件と移籍後もそのまま担当する事件を整理する。弁護士口座を作成していない人は、着手金・報酬金用口座と預り金口座の二つを作成する。
 クレジットカードを持っていない、あるいは一つしか持っていない人は、複数作っておく。
 フリーランス向けの確定申告の本、青色申告の本を読んでおく。
 今まで白色申告だった人は、退職前の3月15日までに青色申告を行う旨の届け出を出しておく。届け出書類は税理士にもよく相談をする。
 消費税の課税事業者になるタイミングを勉強する。弁護士は簡易課税の届け出をするのが一般的。すぐに届け出が必要になるわけではないが、その時期は勉強しておく。

2 退職3ヶ月前
移籍後の事務所にメールアドレスの作成を依頼する。
 また、移籍後も担当する案件については、移籍をする事実と、移籍後のメールアドレス、電話番号等の連絡先を確立しておく。
 フェイスブック、LINE、スカイプなど、メール以外の連絡手段を確実に確保しておく。
移籍後に使用するパソコンを購入し、設定をする。なお、私は一貫してパソコンはレッツノート、携帯電話は昔からフューチャーフォンです。
 パソコンの設定は移籍先の事務所にもよく相談し、慣れないなら費用を支払ってプロに設定してもらった方がよい気がします。
新しい名刺、職印を作成する(弁護士会の協同組合に相談すればOKです)。
弁護士向けの確定申告の本を読み、知人の税理士や移籍先の弁護士に事前に経理をどのように行っているのか相談をしておく。

3 退職2ヶ月前
 弁護士会への届出口座の変更方法を弁護士会に確認する。弁護士会費の引き落とし、経費等雑費の引き落とし、弁護士会からの振込の、合計3つの届け出が必要となります。弁護士会費の引き落とし口座はすぐには変更できないため、2ヶ月ほど前には申請しておいたほうが無難です。
弁護士賠償保険は無保険期間がないように、移籍先の事務所に賠償保険の加入方法を確認しておく。

4 退職1週間前
法テラスに変更のFAXを送る。弁護士会に変更届の書類を提出する(日弁連のHPにもある)。
 弁護士個人の変更届と、弁護士法人の構成員変更届の二つがある。
 すべて自分でやるのか、法人がやってくれるのか、所属事務所に確認をする。
弁護士協同組合に、事務所が変わることを伝え、連絡先や引き落とし口座変更の手続きを行う。
他の弁護士に引き継ぐ案件の辞任届等を提出する(裁判所には原本提出)。
旧事務所と郵便物のルールを決める(郵便局のHPで転送届を提出する。転送届はネットで完結可能。後見等の郵便物もルールを決めておく。必要に応じレターパックを10個ほど旧事務所においておく)。
 所属した事務所でお世話になった人(ボス弁など)に、お礼の品(ネクタイ、ボールペン等)を準備する。所属した事務所の皆様にもお菓子などを配る。

5 退職後1週間
年金を国民年金に切り替えるため、法人から社会保険資格喪失証明書などの退職を示す書類を作成してもらい、区役所の窓口に行く。
健康保険は、自分の収入で任意継続と国保切り替えのどちらが得か区役所窓口に確認する。任意継続の方が良いことが多いだろうから、その場合は任意継続に必要な書類を提出する。
担当案件の送達場所変更の届け出を行う。裁判所に係属している案件、後見案件、管財案件、示談案件の相手方代理人など。
ネット上の媒体(HP、弁護士ドットコムなどのポータルサイト、フェイスブックなど)の表記を変更する。
弁護士会に、交通事故相談の際の利益相反の対象となる保険会社が変更となる旨報告する。  

6 退職後一ヶ月
 経理のやり方を確立する(私は弁護士経理(いわゆる弁経)を使用しています)。
 成年後見の住所変更登記の申請を行う。弁護士会に事務所履歴事項証明書なる書類の取得方法を電話で尋ねる。そして法務局のHPから必要書類をダウンロードし、事務所履歴事項証明書を同封し、郵送する。これは初めての経験だと結構苦労するかもしれません。
小規模企業共済への加入を検討する(これは必須だろうと思います)。
日本弁護士国民年金基金への加入を検討する(確定拠出年金のほうがよいという意見もあるため、どちらに加入するかは周りの弁護士やFPの意見も仰いだほうがよいです)。
経営セーフティ共済への加入を検討する(最初は月額5000円でOKか)。

 あとは日々の仕事を行い、弁護士として生きていくだけです。この投稿は適宜、加筆修正を加えます。

無料求人広告への対応

弁護士 森田祥玄

1 全国で報道もされておりますが、名古屋でも「3週間無料掲載すると言われたので、求人広告を申し込んだら、期間経過後に自動更新の通知書と請求書が送られてきた」という相談を多数受けております。愛知県弁護士会の中小企業法律支援センターには、2019年の上半期で36件の相談があった、とのことです。
2 多くは、更新をするか否かは別途連絡をする、そのときに決めて頂ければよい、と事前に説明を受けます。しかしそもそもそのような、別途連絡する、という手紙が届かない案件もあります。また、私が名古屋の事業者でご依頼を受けた件では、確かに更新をするか否かの手紙は届いておりました。しかし、その手紙は、当該事業者の名前はほとんどでておらず、まったく関係のないパンフレット(例えば「ホームページを作りませんか」などの、ポストに入っていてもすぐに捨ててしまうようなパンフレット)に見えるものでした。非常に分かりにくく、一番後ろのほうに、求人広告のことが短く書いてありました。そして期間が経過したとして、数十万円の請求書が届きました。
3 法律的にこのような求人広告に対して支払義務がないことを主張できるのか、ですが、確かに消費者ほどの法的保護のない事業者を狙った、隙間を付いてきた商売であることは否定できません。
4 しかし、話を聞いたうえで、「結論として、このような商売がまかりとおるわけがない」という感覚を持つ案件については、私はご依頼を受け、内容証明郵便を送付しております。今のところ、私がご依頼を受けた案件は、事業者側からそれ以上の請求をされたことはありません。なお、仮に裁判になった場合には、依頼者様側に赤字にならない範囲内で対応いたします。
5 現在、全国の弁護士が同様の被害について情報を共有しております。私自身も、依頼者の皆さまからの同意を得たうえで、複数の弁護士と情報を共有したうえで、裁判に移行した場合の法律構成も協議しております。
6 求人広告を出すほど忙しい事業者の方々は、まあ、これぐらい仕方ないか、と考え支払ってしまうこともあるかもしれません。しかし、ここでの妥協が、次の被害者を生み出します。法律上必ず勝てるとお約束できるわけではありませんが、安易な妥協はせず、支払いを拒むという対応もぜひご検討ください。
7 さらに、あまりに理不尽な主張をされ、むしろ積極的に慰謝料を請求したい、という方がいらっしゃいましたら、その点もご相談ください。

職場のハラスメント対策、できていますか。

1 弁護士に相談をする労働紛争のうち、訴訟になるものは、解雇や残業代など、お金に関するものが多いのが実情です。
2 しかし、示談交渉、行政の紛争解決援助、裁判所の調停手続は必ずしもそうではありません。平成26年度は、都道府県労働局長による紛争解決援助申立の受理件数のうち、約5割がセクハラに関する事案であったとの統計もあります。
3 自分の所属する会社に限ってそのようなことはない、と思いがちですが、しっかりとした対策が必要です。セクハラは、個々人の尊厳を傷つける許されない行為であることは当然ですが、企業にとっても秩序の維持や業務への支障につながり、社会的評価に悪影響を与えます。いったん紛争化すると、両当事者が退職にいたるなど、経営に与える影響も甚大です。
4 セクハラという言葉自体が多義的に捉えられがちですが、企業側としては、男女雇用機会均等法第11条の規程が、対策の出発点となります。
(1) セクハラとは「職場において行われる性的な言動」と定義づけされますが、「職場」には、取引先であったり、出張先も含まれます。勤務時間外の忘年会などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当します。現場の総務担当者、対策を検討する企業側としては、プライベートも含め「全てが職場にあたる」という気持ちで取り組んだ方がよいでしょう。
(2) また、同条文は、「労働者」への対応を事業主に求めておりますが、ここでいう労働者には、正社員のみではありません。また、派遣労働者については、派遣元だけではなく、派遣先事業主にも、自ら雇用する労働者と同様の対策、措置を講ずる必要があります。
(3) そして「性的な言動」は、事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、学校における生徒同士も、行為者になり得ます。さらには、女性から女性へ、男性から男性へ、女性から男性へ、それぞれ行われることもあります。「これはセクハラではない」との発想自体を捨てる必要があります。
5 セクハラについては、明確な判断基準がなく、違法か否かを検討するのは難しいものがあります。それでも行政や裁判所もできる限り客観的な基準を示そうと努力はしています。まず、意に反する身体的接触については、1回でも違法性が認定されると思った方がよいでしょう。また、身体接触がなくても、明確に抗議しているにもかかわらず放置された場合も違法性が認定される可能性が高まります。基準としては、被害者が女性の場合は「平均的な女性労働者の感じ方」が基準となり、被害を受けた労働者が男性である場合は「平均的な男性労働者の感じ方」が基準となります。
6 女性の側から声をかけてきたんだから、多少は仕方ないだろう、ちょっとぐらいの悪ふざけはコミュニケーションとして必要だ、という発想は、もう許されません。下ネタは全て許されません。また、独身同士のやり取り、純粋な恋愛感情をもったやり取りの場合、会社がどこまで関与するのかは非常に難しい問題です。しかし会社側としては、上下関係のある言動は、本人の意に反している可能性があるという前提で接するべきでしょう。
7 実際のセクハラの事案では、メール、Facebookのメッセージ、LINEでのやり取り、社内でクラウドで使用しているソフトなどが証拠として出されることが非常に多くあります。「好き」だとか、「かわいい」などの言葉や、LINEでいえばハートマーク、キスマークを送るなど、普通の会話ではおよそできないようなことが、セクハラ加害者が行うことがあります。これはパワハラも同様で、メッセージのやり取りが訴訟での主要な証拠となることは多々あります。
8 また、特にパワハラ事案では、会話が録音されていることもよくあります。近時はスマートフォンを一人一台持っておりますので、常に録音機がカバンに入っているのと同じ状態となります。訴訟で会話が録音された記録が出てくることも頻繁にあります。会話を録音することは、少なくともパワハラやセクハラの被害者の立場にあり、立証のためにやむを得ないものであるのなら、違法とはなりにくいものです。マスコミに持ち込まれたり、ユーチューブにアップされることもあり得ます。特に紛争が顕在化したあとの聴き取りなどは、会話は録音されていることを前提に、どこにだしても恥ずかしくない、公正な方策をとらなければなりません。
9 パワハラの場合、セクハラよりもさらに事例の集積が乏しく、判断が難しいところがあります。また、加害者が比較的売上げをあげる人物であったり、仕事の能力はある人物のこともあります。社長そのもののパワハラが問題とされることも珍しくありません。
10 全員に同じ態度なのか、特定個人に向けられたいわばいじめのようなものなのか、1回だけなのか継続的なのか、その言葉遣い、業務時間の内外などを総合考慮することになります。また、会社にいられなくなることで訴訟に発展するリスクはありますので、「○○なら辞めてしまえ」など、退職に関連する言葉で叱責することはパワハラとして問題になりやすいと言えるでしょう。厳しく指導をするとしても、必ず仕事に関連するしかり方をしなければいけません。
11 事業主は雇用管理上、方針を明確化し、職場に周知し、また、相談窓口を整備する必要があります。
まずは意識付けを行う必要があり、そのために、方針を明確化し、労働者に周知を行う必要があります。男女による仕事の区別も許されないこと、お酒の席でのお酌の強要も許されないことなどは、年代によって常識が異なります。まずは周知徹底が必要となります。
周知の方法として、従業員心得の配布、パンフレットの配布、年に一度の講習会などが考えられます。講習会も、役職別に行うなど実効性のあるものとするなど、工夫をすることが考えられます。
12 また、直接被害には遭っていない、一般的な制度の運用に対する相談にも対応する必要があります。性別役割分担意識に基づく言動や制度(女性だからお茶を出す、女性だから受付をするなど)も、まずは自らの常識が今の社会に合致していないのではないかと疑い、幅広く意見を募る必要があります。
13 この5年で採用環境は激変し、従業員を雇用することはとても大変になりました。個々の従業員を大切にできない企業は、仕事はあるけど働き手がいない、という状態となり、市場から淘汰される時代が来ます。
14 また、特徴的なことですが、労働事件は業界内では、「○○社事件」などと、企業名を付けて呼ぶ慣行があります。労働法の教科書や判例集でも、会社名がそのまま事件名として使われ、法学部に入る人は皆さん知ることになります。また、インターネットで会社名を検索すると当該判例がヒットすることがあります。その意味でも、紛争を起こさないこと、紛争が起きた際に適切に対応することが重要になります。
 例えば「L館事件」と呼ばれるセクハラに関連する裁判は、大阪の有名な施設に関する紛争です。最高裁判所が、セクハラの具体的な態様を判決文別紙に添付したことで有名となりました。この裁判はしっかりと読むと、実は会社側はセクハラ加害者に対して厳しい対応もしておりますので、セクハラそのものを防ぐこと、実際の紛争にそれをきちんと対応すること、その両方が必要となります。
15 紛争の特徴としては、やはり問題が生じた際の対応の善し悪しが、その後の流れを左右します。被害者、加害者からの平等な聴き取り、迅速な聴き取りが必要です。また加害者、被害者の早急な異動も必要となります。そして事実が存在した場合に、加害者側に適切な懲戒処分をくだす必要もあります。人事上の措置と懲戒処分を二つ科すことも、やり方にもよりますが、直ちに違法となるわけではありません。
16 懲戒処分としてどのようなものが適切か、という相談も企業から受けます。これは難しい判断です。暴力を伴うなど、客観的に犯罪行為にまで及んでいる場合は、解雇をすべき場面もあるでしょう。その手前といえる事案の場合、出勤停止、降格などを検討することになります。大きくはまず、解雇をすべきか否か、という判断で悩むことになります。解雇までに至った場合は労働者側(加害者側)も生活がかかっており、訴訟にて解雇の有効性を争う可能性はあります。降格や出勤停止については、訴訟リスクは高くはないですが、それでも生涯の給料が相当下がる場合があります。懲戒処分としての減給は10分の1の割合でしかできませんが、降格により反射的に減給する場合、それが必ずしも違法となるわけではありません。この点の適法性は、弁護士とも相談をしながら、過去の社内の事例、そして裁判例とも比較をしながら決めていく必要があります。
17 当事務所所属弁護士は、名古屋の一部上場企業の管理職を対象としたセミナーから、従業員数名規模の企業でのコーヒーを飲みながら行う勉強会まで、幅広くハラスメントセミナーを行っております。費用は行う内容や時間で相談させていただきますが、1回5万円~10万円程度です。お気軽にお問い合わせください。

 もちろん、実際の紛争対応も積極的に受任しております(労働者側、企業側の双方からの受任実績があります)。お困りの際は、遠慮なくお声がけください。

破産手続とデビットカード

弁護士 森田祥玄

 自己破産の手続を取ると、クレジットカードを使えなくなります。しかしネット通販が普及し、クレジットカード決裁を求められる場面が格段に増えました。日々のコンビニやスーパーでの買い物にもクレジットカードを利用する人も増えています。
 自己破産をしたけど、クレジットカードがなければとても不便になるという方には、デビットカードという選択肢もご検討ください。
 先日、名古屋駅周辺にて行われたデビットカードの仕組みを学ぶ講習会に参加いたしました。デビットカードはクレジットカードではありませんが、クレジットカードと同様の使い方ができるとのことです。
 クレジットカードのように毎月引き落としがあるわけではなく、カードを使用すればすぐに口座から引き落としされます。口座に残高があれば使用できますし、口座に残高がなければ使用できません。よって、作成時に信用情報の調査はなく、信用情報機関に掲載されている方でも作成することができるのです。
 近時、多くのCMが流されており、電車での広告も多数ありますので、デビットカードという名前自体は聞いたことがあるかと思います。アメリカではクレジットカードよりも普及している決裁手段です。今後日本でも、現金決済はますます減少し、破産や民事再生手続を取ることにより、カードが持てないことによる不便さはあるだろうと思います。しかし、対応は可能になりました。
 破産や民事再生、任意整理、過払金返還請求により信用情報に名前が載ることが不安な方もいらっしゃるかと思います。もちろん、信用情報に名前が載るリスクはあるのですが、日常生活への影響は限定的です。様々な選択肢がありますし、病気と同じで、根本的な問題を取り除かなければ本当の生活の立て直しは困難となります。
 債務の問題は思い切って弁護士に依頼をした方がよい場合が大半です。一度、名古屋の弁護士にご相談ください。

税理士業務取扱通知弁護士の仕事

弁護士 森田祥玄

1 私は税理士業務を取り扱うことのできる弁護士(税理士業務取扱通知弁護士)です。日常的に税理士業務を行うわけではありませんが、税理士の先生方から相談を受け、税務調査時に意見書を作成したり、あるいは審査請求の代理を行うことはあります。
2 私の主観としては、結論が覆えることがある類型として、重加算税の賦課決定を挙げることができます。
3 通則法第68条第1項及び第2項が定める重加算税の制度は、納税者が過少申告又は無申告について隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税又は無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科する制度です。
4 したがって、重加算税を課するためには、納税者が過少申告行為を行った、というだけでは足りず、過少申告行為や無申告そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在することが必要とされています。
5 参考にされるのが、最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決です。やや古い判例ですが、今でも同判例の射程内なのか、射程外なのかが争われます。同判決は、「重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告すること、又は法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をし、又はその意図に基づき法定申告期限までに申告をしなかったような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解すべきである」としております。
6 この判決文は、「過少申告の意図を実現するための特段の行動があり、その行動によってその意図が外部からもうかがい得るような場合に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在する」としていますので、この、「納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」に該当するかが争われます。税務署は比較的広くこの特段の行動にあたると主張をすることもありますが、同最高裁判例の最高裁判所調査官解説によると、「通常であれば保管しておくと考えられる原始資料をあえて散逸するにまかせていた場合」「税務調査に対する非協力、虚偽答弁、虚偽資料の提出等の態度を採った場合など」などを例としてあげております。税務調査に備えて虚偽の資料を作っていたり、意図的な廃棄をしていたような場合、あるいは税務調査に不誠実に対応した場合はこれに該当します。しかし日頃確定申告をしないような方がうっかり数字を打ち間違えた場合はもちろんこれには該当しません。さらには、自分で意図的に過少な申告をしていた場合であっても、何も税務署をごまかす準備さえしていないような場合これにあたらないこともあります。
7 過少申告をしてしまった人がこの重加算税を逃れるためには、とにもかくにも、税務調査に対して誠実に対応をすることです。
 リーディングケースとされる最高裁平成6年11月22日判決は、所得金額の大部分を脱漏した確定申告書が数回にわたり提出している事案にて賦課要件を満たすと判断していますが、同最高裁判例は、「確定申告後の税務調査に際して、真実よりも少ない店舗数や過少の利息収入金額を記載した本件資料を税務署の担当職員に提出しているが、それによって昭和55年分の総所得金額を計算すると、最終修正申告に係る総所得金額の約17パーセントの額(差額で約14億円少ない額)しか算出されない結果となり、本件資料の内容は虚偽のものであるといわざるを得ない」との事実が認定されています。つまり、税務調査に際しても過少の店舗数等を記載した内容虚偽の資料を提出するなどの対応をして、真実の所得金額を隠ぺいする態度、行動をできる限り貫こうとしたことも重視されています。
 過少申告をしてしまった人は、やはり、反省をし、誠実に対応するのが最も大切となります。
8 但し、誠実に対応をすることと、全ていいなりになることとはまったく異なります。税務署の調査に対して、少し違うけどまあいいかと思い異論を述べなければ、自分に不利な質問応答記録書が作成され、記録として残されます。写しがもらえるわけではなく、また、その場で一度だけ早口で読み聞かされますが、立派な証拠となります。きちんと、事実と違うところは事実と違うと伝え、重加算税の要件に関連するところは積極的に、自分に有利と思える書類も提出する必要があります。このあたりは弁護士の比較的得意とする分野かと思います。
9 また、しっかりと反省をしていることも示しながらも、時系列をまとめて、仮装、隠ぺい行為とまでは評価できないことは書面にして主張をすべきです。類似の審査請求の裁決例を調べて、比較表を作成してもよいかもしれません。租税法律主義(憲法84条)の原理原則からスタートし、最高裁判例や調査官解説を整理し、具体的な納税者側に有利な事実を拾い出し書面化する作業は、訴訟における最終準備書面作成業務に類似しており、やはり弁護士の比較的得意とする分野かと思います。
10 このような業務はスケジュールがタイトであり、うまくいかないことも多くあり、顧客や税理士の先生方の業務内容を理解する必要もありますので、弁護士としても安請け合いはできない、覚悟を持って取り組む類型の業務ではあります。しかし、どの弁護士でも一応の対応は可能な業務でもあります(通知弁護士になること自体は、手続を踏むだけで可能です)。税理士の先生方で、争ってもよいのではないかと思える案件をお持ちのかたは、交流のある親しい弁護士に、一度一緒に争わないかと打診してみてはいかがでしょうか。

交通事故をよく扱う弁護士におすすめの書籍

弁護士 森田祥玄

 私は以前、損害保険会社の案件を扱う名古屋では大きいほうに分類される法律事務所に所属しておりました。そして若い弁護士のための研修も企画し、また、保険会社向け勉強会の講師も担当しておりました。

 損害保険会社から依頼を受ける交通事故も他の案件と同様に、入所して間もない弁護士には初めて知ることが多く、戸惑うものです。そこで、私なりに、若い弁護士にいつもカバンに入れて頂き一読して頂きたい文献を、おすすめ順にまとめます。
 どの分野でも同じですが、薄めで読みやすい本で浅く広く勉強をして全体像を把握したうえで、徐々に深めていく方法がよいと思います。

1 損保会社のパンフレット
 まずもって何度も読み返して頂きたいのは、入所した事務所と取引のある保険会社のパンフレットです。一般ユーザー向けのものです。個人向け、事業者向けなど複数あります。また、自賠責保険請求用のパンフレットありますので、それも精読が必要です。
 人身傷害保険で保険料率があがると言ってしまうだとか、対物超過特約使用の交渉をしながら半年経過させてしまうだとか、ありがちなミスを防ぐには、まずは自社のパンフレット記載事項の理解が必須です。
 とはいっても、一般ユーザー向けに分かりやすく記載されていますので、ハードルは高くはない資料です。まずはここからスタートです。
 会話の基礎となる知識ですので、できる限りパンフレットが改訂されるたびに通読した方が良いです。

2 損害保険会社の約款
 パンフレット記載事項を理解しましたら、入所した事務所と取引のある保険会社の約款をざっと斜め読みしましょう。どこに何が書いてあるか分かる程度で構いません。保険会社も約款の全てを理解していることまでは期待していませんが、電話をしながらすぐに取り出せる位置に約款が置かれていることは期待されています。
 例えば契約者が破産をしたのですがまだ免責は受けていません、直接請求権を行使されているのですが、お支払いしてよいでしょうか、という質問をされた際に、その内容を即答できる必要まではありませんが、約款を開いて一緒に調べ、考えながら答えることができるレベルには到達する必要があります。

3 園部厚「交通事故物的損害の認定の実際―理論と裁判例」(青林書院)
 交通事故の紛争を扱う際になんとなく気になる論点が書かれています。車検証の所有者がリース会社となっている場合の損害賠償請求権者は誰か、だとか、弁護士費用特約に加入している場合に弁護士費用相当額損害金を請求できるか、など、かゆいところに手が届く知識が記載されています。

4 園部厚「簡裁交通損害賠償訴訟実務マニュアル」(青林書院)
 交通事故の知識がコンパクトにまとまっています。上記「4」の本の同一著者、同一出版社です。上記「4」の本と重複するところも多いのですが、それでも分かりやすく書かれており、薄めの本なので、一読をおすすめします。

5 藤井勲「新 示談交渉の技術―交通事故の想定問答110番」(企業開発センター)
 加害者側の想定問答集が記載されております。保険会社の担当者向けの本ですが、示談交渉の入門書として一読しておいた方がよい本です。

6 日弁連交通事故相談センター本部「交通事故損害額算定基準」
 青い本、青本と呼ばれる本で、多くの弁護士が読んでおくべき文献として1位にあげるのではないでしょうか。名古屋地裁交通部は赤い本を規準に算出しますが、青い本のほうが赤い本と比べて説明部分が充実していますので、通読するなら赤い本より青い本のほうがよいだろうと私は思います。多数の裁判を経験したあとに読むとまた新しい発見のある本で、改訂される度に通読をした方がよいです。
 ただなかなか開いてみると情報量が多く、通読しようとして途中で挫折し、治療費は得意だけど損益相殺は苦手という弁護士も多いのではないでしょうか。全5回ほどで友人とゼミを組み、発表担当者を決めて読み進めていけば、どうにか通読にまで至るのではないかと思います。

7 判例タイムズ社 「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版] 別冊判例タイムズ38号」
 青い本、赤い本と並び弁護士が読んでおく本として上位に挙げられる本です。しかし通読する本ではないように思います。前書きと各用語の説明部分は熟読し、その他の部分は斜め読みし、事案を経験しながら理解していけばよいだろうと思います。

8 東京弁護士会「こんなところでつまずかない!交通事故事件21のメソッド」
 先輩弁護士との雑談のなかで知るような豆知識が記載されています。保険会社は時効援用するのか、などがあり、さらりと読めますので一読をおすすめします。

9 高中正彦他「交通賠償のチェックポイント」
 交通事故の知識がコンパクトにまとまってあります。赤い本を濃縮し、また、あまり一般的な本には載っていない制度の枠組み等の記載もある良著だと思います。内容も正確で、筆者の専門性がかなり高い印象を受けます。

10 森冨義明他「裁判実務シリーズ9 交通関係訴訟の実務」
 通読すべき本かというとそこまでではないかもしれませんが、名古屋地裁交通部の裁判官とは、この本の記載を前提に会話を行うこともあり、私は書証として写しを提出することもよくある本です。どの論点が記載されているのか把握はしておいた方がよいです。

交通事故の本は多数存在しておりますが、まずは一般的な任意保険のルール、自賠責保険のルールを浅く広く理解することが大切です。参考にしてください。

相続税対策の一例

遺言作成と同時に、相続税対策はどうすればよいか、と相談を受けることがあります。
弁護士ではなく税理士に聞いてほしい、と伝えることを原則としていますが、それでも簡易な相続税対策なら、弁護士でもアドバイスは可能です。

【事例】
夫に先立たれた女性で、子どもが3人、孫が3人、総資産約1億円です。とくに病気が見つかったわけではないのですが、もうそう余命も長くないと思い弁護士に相談に訪れました。

1 相続税の基礎控除額は、「3000万円+600万円×相続人の数」ですので、事例の場合では4800万円となります。つまり、4800万円以上の遺産には、相続税がかかることになります。相続税対策を行った方がよいだろうとは思います。

2 まず最初に思いつくのが、毎年110万円の贈与を行うことです。贈与税は、毎年110万円までなら非課税です。定期贈与(毎年定期的に贈与をする契約)とならないよう注意が必要ですが、相続税対策として最も一般的に行われている方法です。難しい話ではなく、預貯金口座から、110万円ずつ各子どもの口座に振り込み、1回毎に贈与契約書を作っておけばよいだけです。
しかしここで注意をしなければならないのは、相続開始前3年以内に生前贈与により財産を取得した場合、相続税の課税価格に加算する必要があるとされている点です(生前贈与加算)。余命が長くないと言われてあわてて子どもに贈与をしても、効果が薄いかもしれません。
なお、孫3名に対する生前贈与分は相続税の課税価格に加算されるわけではありませんので、依然として効果の高い方法であることには変わりません。子どもだけではなく、孫や、子どもの配偶者など、相続人以外の人物への贈与も積極的に検討して下さい。

3 次に、生命保険を利用した相続税対策も効果的です。生命保険も相続税の課税対象になりますが、「500万円×相続人の数」までは非課税となります。冒頭の事例では、1500万円までは非課税となります。この非課税枠は是非積極的に利用していただきたいところです。
生命保険は、「新入社員のころや新婚のころに入り、長年払い続けるもの」とのイメージを持たれている方もいらっしゃるでしょうが、高齢になったり、病気になっても入ることができる保険があります。それこそ、ガンであっても入ることができる保険もあります。
具体的には、最近は損をするなどのネット記事もありますので、しっかりと内容を理解したうえで行う必要はありますが、一時払い終身保険を利用することが考えられます。近時流行の外貨建て保険の場合、為替リスクもありますので元本を完全に保証する商品ではなく、代理店手数料や運用リスクもありますが、節約できる相続税を考えますと、リスクを取ってでも申し込みをした方がよい場合もあります。
相談事例のように、夫に先立たれた女性の場合、夫はサラリーマン時代に生命保険に加入していても、妻は県民共済にしか入っていなかった、というようなパターンも多くあります。
仮に何も対策をしなかった場合の相談事例の相続税が630万円として、1000万円の生命保険に加入したら、相続税が480万円ほどまで減らせる可能性があります。
入院中であったり、余命宣告を受けていると活用できない場合もありますので、そのあたりはありのまま、弁護士やファイナンシャルプランナー、保険代理店にお伝えください。

4 ほかには、ガンが見つかった、というような事情で、一気にお金を動かした方がよい場合は、例えば「教育資金の一括贈与」という制度を利用することが考えられます。相談事例では30歳未満の孫がいるのなら、検討の価値があります。日頃利用している銀行に相談をすれば、パンフレットを渡して頂き、積極的に手続を教えて貰えます。具体的には、当該銀行に新しい口座を作成し、金融機関と信託契約(教育資金管理契約)を結びます。そして孫と贈与契約を締結し、その口座にお金を振り込めば完了です。受贈者(孫)1人につき1500万円までの贈与が非課税となりますが、教育資金にしか用いることができない、30歳までに使い切れなければその時点で課税される、などのデメリットもあります。毎年の110万円の贈与などを行う時間的余裕がない場合、あるいは大学の入学資金等を出してあげるまでは余裕もない場合には、検討の価値があります。

5 典型的には、「養子を取る」という方法もあります。相続税の非課税枠は、「3000万円+600万円×相続人の数」ですので、養子を1名取れば、相続人の数を増やすことができます。無制限に増やせるわけではなく、冒頭の事例では相続税対策としては1人までしか算入はできません。養子が1人増えても非課税枠は600万円までしか増えませんので、生命保険や教育資金贈与等に比べれば効果は大きいものではありません。何より、1人相続人(兄弟)が増えるわけですから、微妙な子ども達の仲に影響を与え、将来トラブルとなる可能性があります。積極的にはおすすめはしませんが、古くから行われる古典的な相続税対策ですので、一考の価値はあるかと思います。

6 あとは、「現金・預貯金を、不動産に変える」ということも考えられます。一般的には預貯金よりも不動産の方が相続税申告時は評価が低く算定されますので、有利となります。

7 上記の方法のうち、孫3人に3年間合計990万円を贈与し、1500万円の生命保険に加入し、孫3人に合計3000万円の教育資金贈与を行い、3年後に亡くなった場合、例えば対策前は600万円ほどであった相続税が、計算上は0円となることもあります。養子縁組までしなくても、相続税を減らすこともできる可能性があります。

8 但し、ここまで記事を書いておきながらではありますが、我々弁護士のところに来る紛争案件は、生前に相続税対策をしたことが原因で揉めはじめた案件も多くあります。「特定の子どもにだけ、生命保険を1500万円も残した」「知らない間に特定の孫にだけ1500万円もの教育資金が贈与が行われていた」「勝手に甥っ子と母が養子縁組していて、母が亡くなってから知った」など、子ども達のためにと思って行った行為が、紛争を呼び起こすこともよくあります。弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーに相談をして、関係者が納得のうえで進めるべきでしょう。

9 特に、認知症の症状があらわれてから、子どもが主導して相続税対策が行われるような事案は、10年かかる紛争を呼び起こすこともあります。何が幸せかは、考え方も色々です。何も対策をせずに相続税を払っておけばもめることもなかったのに、兄弟の仲がここまで悪くはならなかったのに、という事案もたくさんあります。
 まずは専門家にご相談ください。

遺留分侵害額請求権の計算方法

1 平成30年の民法改正により、遺留分侵害額請求権の理解が容易になりました。今までは遺留分侵害分を「取り戻す」(遺産を返して貰う)制度でしたが、これからは、遺留分侵害分の「お金を支払ってもらう」という制度になりました。ですので、今までのように土地の持ち分や株式の持ち分が移るわけではなく、全てお金の問題に帰結します。

2 遺留分侵害額の計算方法自体には、従前と同じ考え方が採用されています。遺留分侵害額請求のトラブルは、実際に一度訴訟を担当してみないと分からないことが多く、苦手意識を持つ弁護士も多いのではないでしょうか。

3 計算は、決して複雑なものではなく、普通の足し算、引き算、かけ算、割り算で算出できます。条文と判例に従い1つ1つあてはめていけば数字はでます。
まず、「相続開始時点での遺産」を整理します。
そして、その金額に、民法1044条で加算可能な贈与された財産を足します。
さらに被相続人の債務を差し引けば、まずは遺留分減殺請求の対象となる総財産が算出されます。このことが民法1043条に記載してあります。

この金額に、考え方としてはまずは総体的遺留分の割合をかけます。その多くは2分の1だろうと思います。そして、さらに法定相続分の割合をかければ、遺留分侵害額の基礎となる財産が出ます。

こうして算出された数字に、1046条2項1号に規定される特別受益額、民法1046条2項2号に規定される相続によって得た財産を差し引きます。もしも請求権者が負担する相続債務があるのなら、民法1046条2項3号の定めに従いその相続債務の額も加算します。

4 訴訟になった際には、名古屋地方裁判所では、「このエクセルシートに入力して欲しい」というシートを渡されることも多いかと思います。但し、相続人の数や遺言の内容によって少しずつ計算方法は変わりますので、結局は、条文と判例を見ながら打ち込むことになり、弁護士の出番があります。

5 また、不動産価格の算定や、株式価格の算定、生前の贈与をどこまで加算できるのかなど、専門家でなければ判断しがたい部分もあります。非上場株式の株式価格の算定では、相続税申告の際の株式の価格と時価が大きく異なることがあります。

6 平成30年の改正により金銭債権となりましたので、考え方が容易になりました。過去に訴訟を提起し、補正が多数あり苦手意識を持ってしまった弁護士も、取り組みやすくなりました。先入観を捨てて(再)チャレンジしてよい分野だろうと思います。

7 但し、裁判例や示談事例の蓄積は引きつづき待ちたい分野でもあります。従前は遺留分に相当する不動産を渡し解決をする、ということもありました。しかし金銭債権であることが条文上明記されておりますので、「遺留分相当額の不動産を渡す」という解決をしますと、遺留分侵害額を不動産で代物弁済をした形式になります。その結果、渡した側に想定外の譲渡所得税(遺留分相当額で譲渡したという結論になる。通常の売買と同じように、譲渡所得税の計算が必要となる)がかかることになります。

令和元年6月28日付で「所得税基本通達33ー1の6」も以下のように改正されています。

金銭以外の解決をする際の柔軟性はむしろ失われたとも評価できますので、注意をしながら進めてください。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/kaisei/190628/pdf/05.pdf

離婚相談時にご持参頂けると助かる資料

 弁護士に離婚の相談をする際は、もちろん手ぶらで来ていただいても構わないのですが、事前に相談したい事柄をメモ書き程度でいいのでまとめておいて頂ければ、相談がスムーズです。具体的にまとめて頂けると助かる事柄を記載いたします。

1 基本的な情報
・相談者の氏名、住所、生年月日、電話番号、メールアドレス、勤務先、年収
・相手方の氏名、住所、生年月日、電話番号、メールアドレス、勤務先、年収
・子どもの氏名、住所、生年月日、現在通学している学校
・不貞相手などの第三者がいる場合、第三者の氏名、住所、電話番号、勤務先
・相手方や第三者に弁護士が就いている場合、弁護士の名前、連絡先
・訴訟や調停になっている場合は裁判所から届いた資料一式

2 財産関係の情報
・土地、建物の持ち分、大まかな固定資産税評価、大まかな残ローン額
・土地、建物のローンの名義人(夫のみ、妻のみ、夫と妻の連帯債務、夫が主債務者で妻が連帯保証人など)
・双方の預貯金の銀行名、支店名、大まかな残高
・双方の生命保険、医療保険、学資保険等、保険の有無、保険会社名、保険のタイプ
・双方の車両の有無、車種、購入年月日

3 希望する請求
・慰謝料の請求を希望するか、するとしてどの程度を求めたいか
・離婚するまでの生活費(婚姻費用)を請求するか、するとしてどの程度を求めたいか
・養育費の請求を希望するか、するとしてどの程度を求めたいか
・親権について争いがあるか

4 今まで歩んできた歴史
・双方の両親の名前、住所
・夫婦の学歴(高校、大学、過去の勤務先)
・夫婦の出会い、結婚に至るまでの経緯
・婚姻年月日、別居をしているのなら別居の年月日

5 離婚をしたい理由
・互いの性格
・離婚協議をするに至った経緯

6 離婚へ進むためのステップ
・離婚後の生活の予定、特に別居後にどこで、どのように生活をするのか。
・携帯電話の支払名義、クレジットカードの支払名義、水道光熱費の支払名義、その他生活をしていくうえで必要となる支払いをどちらが負担しているか、その変更の要否

以上のような事柄を、ごく簡単で結構ですのでワープロ打ちでざっとまとめていただけますと、相談にスムーズに入れるだろうと思います。もちろん事前準備ができずにそのまま法律相談に来所頂くかたも多数おられますので、必須というわけではありません。これから弁護士に離婚の相談をするというかたは参考にしてください。

(参考:初回の法律相談にはなくてもよいのですが、いずれは収集したい資料)
・戸籍謄本、住民票
・本人、相手方の給与明細書、源泉徴収粟
・本人、相手方の確定申告書、所得証明書・課税証明書
・本人、相手方の履用契約書(退職金があるかないかが分かる書類)
・年金を受給しているのなら年金の葉書
・年金情報情報通知書(原本)
・双方の預貯金通帳(写し、婚姻時から別居時までの記載のあるもの。子供名義のものも含む)。
・保険証書
・保険の解約返戻金証明書
・証券会社との取引明細
・借金がある場合の残高が分かる賢料
・不動産登記簿謄本
・固定資産評価証明書(課税明細書でも可)
・住宅購入の際の契約書、頭金の拠出割合が分かる資料
・住宅ローンの今後の支払い予定及び残高が分かる資料
・自動車検査証
・DVがあるのなら診断書や写真
・不貞があるのなら証拠と思われる資料

ガーゼ取り忘れ事故

1 医療事故の典型例の1つに、ガーゼ取り忘れ事故があります。例えば虫垂炎の手術(昔は盲腸と呼ばれていた箇所の手術)を行い、時が流れ、20年も30年も経ってから、急にお腹が痛くなることがあります。そしてお腹を開けてみるとガーゼと思われる物体が発見されることがあります。

2 ガーゼ取り忘れ事故の第一の課題は、昔手術をした病院に原因があると立証できるか、という点です。体にガーゼが残っていることは、ガーゼを取り出した病院が病理検査をすれば明らかになります。問題は、ガーゼを残した病院を特定できるか、という点です。

3 医師法24条は、第1項で「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」と定め、第2項でその診療録は「5年間これを保存しなければならない」と定めます。診療録(カルテ)以外の日誌やX線写真などは、医療法21条1項14号により、2年間の保存義務があるものと定められています。

 ただし、保存期間5年というルールは、あくまで法律上の規程であり、多くの病院では実際はそれよりも長い間保存します。将来的なトラブルに備え、場所がある限りは保管をしている病院もあります。また、電子カルテを導入している病院も増えております。電子カルテの場合は紙のカルテのように物理的な保管箇所が必要となるわけでもなく、保管されやすくなります。昔すぎる、と諦める必要はありません。病院の診療録があれば、そこで何が行われたのかが明らかになりやすく、開示を請求すべきでしょう。

 ガーゼが取り残された場所と、昔手術をした箇所を照らし合わせれば、合理的にみて、昔手術をした際にガーゼが取り残されたと考えてよい場合も多いだろうと思います。


4 そのほかの証拠収集方法として、公的医療保険に弁護士会照会をかけて、過去の病院の通院歴等を明確にしておくことも考えられます。会社員とその家族なら健康保険に、それ以外は国民健康保険に加入しています。なお、75歳以上の人はそれらから外れ後期高齢者医療制度に加入しています。健康保険は、いわゆる協会けんぽと、組合健保に分かれます。これらの公的医療保険の機関に弁護士会照会を行い、入通院歴を分かる範囲で確定させることができます。


5 もちろん、手元や実家に残された病院の領収書、診察券、手術同意書等の控えなども、1つ1つが証拠となります。手元の証拠が乏しい場合、子どもの頃の写真を自宅から取り出し水着姿の写真で手術痕がいつからあるのかを立証するなど、地道な努力も必要です。親兄弟、友人の陳述書なども、無駄ではありません。


6 相手方となる昔手術をした病院に証拠保全を行うことも考えられます。証拠保全とは、訴訟提起を待っていてはその証拠を使えなくなる(つまり、改ざんのおそれがある)ような場合に、訴訟提起を待たずに裁判所が証拠調べを行う手続です。医療事故訴訟では、患者側は治療経過に関する客観的な資料を持ち合わせておりません。病院側の過失を問えるか否かを判断するためにも、証拠保全によりカルテ、医療記録の入手・検討を行う必要があります。

 証拠保全は相手方に告知することなく、裁判所からの書類が届いた当日に、裁判官、裁判所書記官、弁護士、弁護士が連れてくるカメラマンなどが来院し、診療記録の開示を求めます。
 証拠保全手続は弁護士にとってもそれなりに手間暇のかかる手続です。大きな病院なら慣れているので、淡々と法務担当者が窓口となり事務的に進めてくれます。しかし病院によっては慣れておらず、その場での交渉、やり取りも必要となります。同行する裁判官は若手のことも多く、大変そうです(その分、裁判所書記官はベテランのことが多い印象です)。
通常、示談交渉や訴訟提起とは別で、証拠保全のためにも弁護士費用がかかります。行う類型や病院の場所、裁判所の場所などにもよりますが、最も安くても30万円と消費税程度は見ておいた方がよいでしょう。
ガーゼの取り忘れ事故の場合、何も後遺障害が残らないような事案なら、得られる賠償金がそこまで高額にはなりません。病院の責任を認めさせ、賠償金を獲得できたとしても、その大半が弁護士費用で消えてしまうことにもなりかねません。
 確かに「カルテは廃棄したので、ガーゼの取り忘れがあったかどうかも、もう分かりません」と言われると、立証の難易度はあがります。証拠保全手続を行う必要性は否定できません。しかし、手紙を一通普通郵便で送れば、病院側が責任を認め謝罪し、あとは金額の交渉になることもあります。この場合は、証拠保全手続を取る必要はなかった、との結論になります。
 医療事故紛争のなかには、病院の過失自体は明らかなことも多くあり、ガーゼの取り忘れもその典型です。近時は、病院側も自らの過失を早期に認めることが増えている印象はあります。このあたりの判断は難しく、人間の行うことですので、絶対はありません。

 証拠保全手続を取るかどうかは慎重に判断し、そのメリットとデメリット、最終的に得られるであろう賠償金と要する弁護士費用のバランスを考え、選択した方がよいだろうと思います。

7 こうやって、どの手術でガーゼが残されたのか明らかになれば、当該病院に対し損害賠償請求を行うことになります。

8 ガーゼが取り残されているのならば、債務不履行があったこと、あるいは不法行為上の義務に違反したことについては、特別な主張、立証の議論は不要だろうと思われます。しかしいくつか法的な争点は残されます。


9 まずは、時効の問題があります。
 時効制度は法改正があり、法改正後は、債務不履行に基づく損害賠償請求については、「権利を行使することができることを知った時から5年間」か、「権利を行使することができる時から10年間」のどちらか短い方となります。ただし、生命・身体に損害が発生している場合は、「権利を行使することができる時から20年間」となります。よって、ガーゼの取り忘れの場合は、最初の手術から20年以内に発見された場合は、すぐに弁護士に相談をすれば時効にならずに請求できます。
 不法行為で構成した場合は、損害及び加害者を知ってから3年、あるいは不法行為のときから20年で時効になるものとされます。しかし不法行為の場合も生命・身体に損害が発生している場合、特例があります。生命・身体に損害が発生している場合は、債務不履行と同様に、損害及び加害者を知ってから5年、あるいは不法行為のときから20年となります。
このような消滅時効の制度については、法律の改正があり、旧法と新法の適用関係も整理が必要です。「法律が施行される日より前に生じた債権については、現行の民法の適用となる」とされております。
よって、だいぶ前のガーゼ取り忘れ事故の場合、債権そのものは取り忘れたときには発生しているでしょうから、改正前の民法が適用されることになるだろうと思われます。
では、30年前の手術でガーゼ取り忘れ事故が起きたような場合、時効で請求できないのでしょうか。数字だけをみると、条文上、旧法・新法ともに請求できないようにも見えます。消滅時効の起算点の問題です。
これについては、東京地裁平成24年(2012年)5月9日判決(判例時報2158号80頁)が参考になります。約25年後に発覚した残置事故について、債務不履行の消滅時効の適用を否定し、請求を認容しました。
不法行為の場合は除斥期間の問題がありますが、医療事故の場合は債務不履行構成が可能となりますので、「権利を行使することができることを知った時」を、ガーゼ取り忘れを知ったときと考えれば、時効の問題はクリアできます。
ただし「権利を行使することができることを知った時」についてはやはり解釈の問題がどうしても残りますし、病院側の初回の回答では時効である以上払う義務がない、などと記載されることもあります。
  時効が争点となることはご理解頂いた方がよいだろうと思います。


10 こうやって立証と法律的な問題をクリアしたなら、最後に、「賠償金はいくらになるのか」という話となります。
 ガーゼを取り出した手術代や病院への交通費、付添看護費、休業した際の休業損害、後遺障害が残った際は逸失利益や後遺障害慰謝料が発生する点は、交通事故の場合と同様に考えればよいだろうと思います。

 問題は慰謝料です。ガーゼ取り忘れについては相場が形成されているというほどの裁判例があるわけではなく、個別判断とならざるを得ません。

 「実害はないけど、お腹に長い間残っていたかと思うと不快だった」という点をどのように評価するかですが、実害はなくとも体に残置されていたことをもって一定の慰謝料を認めた裁判例もあります。また、「若い頃からお腹を壊しがちだった。たぶんこれが原因だと思う。」というような、法律的には因果関係の立証までは難しいような事情をどこまで考慮するかの問題もありますが、この点は明示的には考慮しにくい事情だろうと思われます。

 患者側は高額な慰謝料が認定された裁判例の事案に近いと主張し、病院側は低額な慰謝料が認定された裁判例の事案に近いと主張し、落としどころを模索していくことにならざるを得ません。

 不幸な事故に巻き込まれた方、諦めずに、一度お近くの弁護士にご相談ください。