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SNSアカウントの相続

弁護士 森田祥玄

第1 デジタル遺産とは

 最近、法律書を読んでおりますと、デジタル遺産という言葉が出てくることがあります。
 法律上、デジタル遺産という言葉の定義はありません。
 私が読んだ文献では、暗号資産だけではなく、スマートフォンで撮影した写真や動画、パソコンの中の文書、SNSアカウント等、相続の際に問題となるデジタル化された情報全体を指すことが多いようです。

第2 SNSのアカウントを相続できるのか

1 SNSアカウントについては、SNSアカウントそのものを相続するのではなく、SNSを運営する各社との契約上の地位を相続すると考えます。
2 日頃はあまり意識していませんが、SNSを利用する一番はじめには、我々はSNS運営会社の利用規約に同意をして、利用をスタートしています。よって、SNSを運営する各社との利用規約に拘束されますし、相続人も同様です。

第3 代表的なSNSの対応

 令和3年10月現在の、いくつかのSNSの対応を紹介します。

1 Twitter

 Twitterは、ユーザーが亡くなった場合の処置について、利用規約には明記していません。しかしTwitterのヘルプセンターを確認しても、アカウントを相続人が引き継ぐ前提の受け付けはしておらず、少なくとも明示的には、相続によるアカウントの引き継ぎをTwitterは予定していないものといえます。
 Twitterユーザーが亡くなった場合は、近親者からアカウント削除のリクエストを送信します。そして申請者の身元が確認できる書類、死亡通知書等を提出すれば、アカウントの削除が行われます。

2 Facebook

 Facebookヘルプセンターは、「いかなる場合であっても、第三者が別の人のアカウントにログインすることはFacebookのポリシーに違反します」と記載されており、この第三者には相続人も含むというのがFacebookの考えです。相続人であっても、故人のアカウントに自由にログインできるようにはなりません(近親者からの要望であれば、Facebookはアカウントの削除には応じます)。
 なお、Facebookには、追悼アカウントという制度があります。ユーザーが亡くなったことをFacebookが把握すると、原則追悼アカウントに移行します。
 Facebookユーザーは事前に、ユーザーが亡くなったら追悼アカウントとしてアカウントを残すのか、アカウントを削除するのかを選ぶことができます。追悼アカウント管理人も事前に選ぶことができます。追悼アカウントの管理人は、カバー写真を変更したり、アカウントの削除をリクエストすることは可能ですが、アカウントそのものにログインはできません。
 このように、Facebookには追悼アカウントという枠組みは存在するものの、相続によるアカウントの引き継ぎまではできないものとされています。

3 Instagram

 InstagramはFacebookのグループ企業です。Facebook同様、「いかなる場合であっても、第三者が別の人のアカウントにログインすることはInstagram のポリシーに違反します。」と記載されており、ログインするために必要なアカウントの情報を教えてもらえるわけではありません。ユーザーが亡くなったことをInstagramが把握すると、追悼アカウントに移行します。また、故人の近親者であることを証明できれば、アカウントの削除を依頼することはできます。

4 LINE

 LINEは利用規約に、「本サービスのアカウントは、お客様に一身専属的に帰属します。お客様の本サービスにおけるすべての利用権は、第三者に譲渡、貸与その他の処分または相続させることはできません。」と明記しており、アカウントの相続を明示的に否定しています。相続人からのアカウント削除の申請は受けつけておりますが、アカウントを引き継ぐことはできません。

第4 SNSアカウントの相続の可否

 以上のように、SNSを運営する各社は、アカウントの相続には消極的な立場を取っており、アカウントにログインすることさえも難しいのが通常です。
 ただし、Facebookヘルプセンターには、裁判所からの命令等があれば検討する、との記載もあります。
 法制度が異なる外国での話ですが、子どもが亡くなった原因(自殺であったか否か)の調査のために、相続人(親)がFacebookに、アカウントへのアクセス許可を求めた裁判がありました。ドイツ連邦裁判所は、デジタル化されているからといって日記や手紙と異なるわけではないとして、アカウントの相続を認めました。
 このように、開示を求める特別な理由がある場合、あるいは、例えば多数のフォロワーがいてアカウントそのものに経済的に高い価値があるような場合、本当に相続できないのか、相続人がログインさえできないのかは、本日現在、日本の裁判所の判断は示されていないようです。
 いずれにしろ、相続人が困らないように、死亡後にどのようにデジタル情報を処分してほしいのか、そしてその手順について、きちんと伝えておくことが大切です。

著作物引用の基礎知識

弁護士 森田祥玄

顧問先や自営業者団体、士業等の専門家の団体などから弁護士に、著作権について簡単な講義をしてほしい、とのご要望を頂くことがあります。
その場合、その多くは、パンフレットやホームページを作成する際や、セミナーを開く際に、既存の著作物を利用してもよいのか、どのような引用方法なら許されるのか、という点に関心があります。
以下、Zoomでの表示用もかねて、45分程度でお話しすることを想定した講義用のレジュメを貼付いたします。
セミナーのご希望がございましたら、見積もりを出させて頂きますので、お気軽にお声がけください。


第1 著作権とは

著作権法第1条
「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」

第2 著作物とは

そもそも著作物に該当しないものなら、使用をしても著作権法上は適法となります。

著作権法2条1項1号
著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」

1 思想又は感情の表現

単なるデータ(平均気温や人口動態等)、歴史的事実は思想または感情の表現にはあたらないものとされています。

2 創作的

古文単語の語呂合わせ、交通標語について著作物ではないとした裁判例があります。日常的にありふれた表現、例えば時候の挨拶文もこの要件に該当しないものとされます。

3 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの

知的、文化的精神活動全般がこれらに含まれるとされており、この範囲は広いものです。

第3 著作物に該当するものの具体的

著作権法10条
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物

2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。

※新聞記事は単なる事実を伝えるだけの記事ならば10条2項に該当します。しかしある程度の長さのある記事は著作物として保護される可能性が高く、基本的には著作物に該当すると考えた方が安全です。

第4 権利の目的とならない著作物

著作権法13条
次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
一 憲法その他の法令
二 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人(略)又は地方独立行政法人(略)が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの

※但し、編集著作物(著作権法12条1項)にあたる場合があり、注意が必要です。例えば判例をまとめた雑誌等。

著作権法12条1項 編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。

第5 著作権の保護期間

著作権法第51条
1 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)70年を経過するまでの間、存続する。

なお、第52条も参照。

第6 著作権を利用できる場合1 著作権者の承諾

原則として著作権者の許諾が必要ですので、まずは著作権者の承諾を取ることができるかを検討してください。
出版契約、映画製作契約、利用契約等。

第7 著作権を利用できる場合2 私的使用のための複製

 
個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限りの範囲内で使用する目的で複製することは、可能とされています。但し、著作権法30条1項各号の例外も重要。

30条1項2号→コピーガードをあえて外して複製する場合
30条1項3号→違法にアップロードされた映画・音楽を違法にアップロードされたと知りながらダウンロードする場合
30条1項4号→違法にアップロードされた映画・音楽以外の著作物(漫画・書籍・論文・コンピュータプログラム等)をダウンロードする場合

社内での研修利用でも私的使用には該当しないものとされる。
自宅でのテレビ番組の録画や、自分で購入した書籍のPDF化など、ごくプライベートな利用に限られると考えたほうがよい。

第8 著作権を利用できる場合3 適法に引用する場合

著作権法第32条 
1 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

判例は明瞭区別性と、主従関係が必要とする。

1 明瞭区別性

  
引用部分と自己の著作物とが明瞭に区別されることが必要です。カギ括弧ではさむ、文字を斜体にするなど、引用であることが明確に分かるようにする必要があります。

2 主従関係

自己の著作物が主であり、引用する他人の著作物が従でなければならないとされています。
単に分量で決まるわけではなく、引用の目的、両著作物の性質、分量等を総合考慮によって決するとされています。
あえて目安があるとしたら引用部分が全体の1割以内、という考え方がありますが、ケースバイケースと言わざるを得ません。

3 出所明示義務

引用に際しては、引用されて利用される著作物について、その出所を明示しなければならない、とされています。 その本の名前やWebサイトのURLを明記する必要があります。

4 必要性

その著作物を引用する必要性が本当にあることも要件となります。
条文上、「公正な慣行」に合致したものであり、かつ、「正当な範囲内」であることが求められており、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない、とされています。

第9 引用例

1 ウェブサイトから引用する場合

愛知さくら法律事務所では、弁護士にとっての裁判業務について、

「情報化社会の中においても裁判実務は未だ定型化が難しく、ノウハウも公開されず、経験や研鑽によってのみ成長できる分野」
(出典:愛知さくら法律事務所ホームページ
http://www.aichisakura-law.com/practice/p02/

と記載する。

のように、引用部分をカギ括弧等で区分し、ウェブサイト名とURLを明記します。

2 書籍から引用する場合

「書籍から引用する場合も、ウェブサイトと同様の、カギ括弧でくくり、出典を明示する。出典の明示方法は、大学生向けの論文の書き方を記した文献等が参考になる」

(出典:著者名・書名(出版社・出版年度))

Q:図表、絵、漫画のコマも引用できるでしょうか?

A:引用の要件を満たしていれば法律上は可能です。 しかし、特に絵や漫画を引用する場合、一般的な文字の引用に比べ必要性や主従関係の要件を満たさない場合も多いだろうと思われます。絵や漫画については引用する慣行があるとも言い難く、安易な引用は避けるべきです。

第10 著作権を利用できる場合4 その他

検討過程の利用、図書館等における複製、教育目的のための使用、営利を目的としない上演、裁判手続における複製等。

第11 まとめ

□引用の要件を満たせば使用できるため、極端な萎縮をする必要はありません。
□ただし、どこからがセーフ、どこからがアウトとはいいにくいのが実情です。できる限り著作権者に同意を頂けるよう努力すべきです。
□公正な慣行による方法で、目的上正当な範囲内という条文の文言からも明らかなように、社会通念や常識によって決まる要素も大きいものです。引用元への誠意・リスペクトをもてば、大きな紛争になることはないだろうと思います。

契約書作成の基礎知識

弁護士 森田祥玄

企業担当者様向けに、契約書を取り交わす際に知って頂きたい基礎知識の勉強会を行うことがあります。コロナ禍により、Zoomでのセミナーが主流になっておりますので、私どもの表示用も兼ねてレジュメをアップいたします。契約書のチェックや作成は顧問弁護士業務の中心ですので、ご希望がございましたら遠慮なくお問い合わせください。

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第1 前提知識

1 契約はいつ成立するのでしょうか。意思の合致とは、どのような意味でしょうか。

  Q:署名だけあり、印鑑のない契約は有効でしょうか。
 A:

 Q:文書を交わさず、メールのやり取りだけで行った契約は有効でしょうか。
 A:

 Q:書面を交わさず、電話のやり取りだけで行った契約は有効でしょうか。
 A:

2 契約書は何のために存在するのでしょうか。

□合意内容の確認
□いざ紛争となった際の証拠

3 契約書がない場合の紛争例

(例)契約書なく工事を進めた。

□2週間ほどかけて準備を進め、重機も現場にいれ工事を開始したところ、相手方の担当者からそもそもまだ契約は締結していない、他の業者に依頼予定である、との連絡があった。

□2か月ほど工事を行い7割ほど完成をしたところで、突然、元請けから工事を中止するとの連絡があった。やむなく7割分の請求書を送付したら、工事完成前なので一円も支払えないと言われた。

□無事工事が完成して、一般的な基準で費用を請求したところ、高すぎると言われた。

4 裁判のルール

原則として請求をする側が、権利が存在することや、その金額を立証する必要があります。契約書がなければ、メール、LINE、見積もり、請求書、その他一切の事情から立証していく必要があります。

第2 契約条項の修正

1 契約書の条項をどのように修正すればよいのでしょうか。

【例1】
「引渡ができなかった場合、損害を賠償しなければならない」とだけ記載があった場合、どのような修正が考えられるでしょうか。

Q「引渡ができなかった場合、実際の損害の有無にかかわらず、100万円を賠償しなければならない」という記載があった場合、このような条項は有効でしょうか。

A:

Q「引渡ができなかった場合、損害として100万円と、必要となった弁護士費用を賠償しなければならない」という記載があった場合、このような条項は有効でしょうか。

A:

→契約は自由に定めることができるのが、大原則。
※下請法、労働基準法、借地借家法、消費者契約法、特定商取引法、農地法、利息制限法など、当事者の意思より優先する強行法規も存在します。

 【例2】
「引渡ができなかった場合、契約を解除することができる」という記載があった場合、いざトラブルが起きた場合の解除手順が不明確となる。

変更例:「令和○年○月○日までに甲の指定場所に納品できなかった場合、甲はメール、文書のいずれかの方法により契約を解除することができる。」

変更例:「令和○年○月○日までに甲の指定場所に納品できなかった場合、本契約は自動的に解除される」

2 契約書の記載方法は法律上の決まりはありません。

契約書には、難しい言葉を使う必要はありません。ですます調でもかまいませんし、契約書の中に図や表、絵、写真を入れても問題ありません。お互いが契約内容を理解していることが大切です。

第3 契約書の体裁

1 管理、ファイリングのしやすさも重要です。

 ※実際の紛争(訴訟)は、契約書作成から時間が経過してから発生します。

【例】
 30年前に賃貸借契約を結んでいたが、貸主は20年前に死亡しており、相続の際に子ども達と覚え書きを作成していた。今回、立ち退きを巡りトラブルとなった。一番古い契約書、覚え書き、その後に作成した契約書などがバラバラとなり、関係者全員が、どれが最新の合意内容なのかよく分かっていない。

□紙の枚数は少ない方がよく、1枚に納めることができるのなら裏表印刷にする、A3にする、文字の大きさを整えるなどの工夫をしてもよいかと思います。
 
□契約書のファイリングルールも決めておきましょう。PDF化し、事案ごとにフォルダに整理し、バックアップも取っておくべきです。また、担当者の交代があった際の引き継ぎのルールも決めておきましょう。

2 電子契約とは

 オンライン上で契約を締結できるサービスです。様々な業者がサービスを展開しており、問い合わせをすればオンラインで説明会を開催してくれます。現状、多数の業者がサービスを提供しており、どこがおすすめ、とまでいえる状況にはありませんが、私見をお伝えすることは可能です(私(弁護士森田)も特定の業者と契約をしています)。収入印紙削減、管理コスト削減がメリットです。

第4 印鑑の基礎知識

「私文書の作成名義人の印影が、その名義人の印影によって押印された事実が確定された場合、反証がない限りその印影は本人の意思に基づいて押印されたものと事実上推定され文書全体の真正が推定される」(最高裁昭和39年5月12日判決)
「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」(民事訴訟法228条4項)

Q:捨て印とはどういう意味でしょうか。
A:

Q:契印と、割り印の違いは何でしょうか。
A:

第5 連帯保証人の注意点

1 実印の基礎知識

Q:連帯保証人は実印で押印を貰わなければならないのでしょうか?
A:

Q:実印を押して貰った場合、印鑑証明書の添付が必要でしょうか?
A:

Q:印鑑証明書は、3か月以内でなければ効力がないのでしょうか?
A:

Q:実印は個人にしかないのでしょうか?
A:

2 できる限り面談を

本人に、将来的に債務を負う可能性があること十分に分かって頂くことが重要です。面談、Zoom、LINE、電話等、方法に法律上の定めがあるわけではありませんが、連帯保証の意味をしっかりとお伝えしましょう。

3 無制限に保証をする連帯保証契約は認められていない。

連帯保証人を取るときは、連帯保証人が最大でいくら負担するのか、一読して分かるように明記する必要があります(「丙は、甲が負う債務を、金300万円を限度として連帯保証する」等)

第6 収入印紙

 悩んだらタックスアンサーを確認してください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/inshi301.htm

Q:取引基本契約書の印紙は?
A:

 売買の場合、単発1回のみなら収入印紙は不要ですが、1つの契約の中に売買と請負の要素がある場合など、悩ましい事案も多くあります。悩んだら必ず税理士、弁護士に相談をしてください。

Q:収入印紙を貼っていない契約書の効力は?
A:

Q:収入印紙を節約する方法は?
A:手持ちをコピーでよしとする、全て電子媒体だけで完結するなど。少額の取引だが、取引基本契約書は必要である、という需要が多数ある場合は、電子契約の導入を本格的に検討したい。

第7 契約書と向き合う基本的な姿勢

1 可能な限り、契約書文案は当方で準備しましょう。

・相手方が提示された契約は、やはり相手方に有利になりがちです。

【例】
Q:下記2つの記載には、どのような違いがあるでしょうか。

・乙(当社)が商品の納品をした場合には、甲(取引先)は乙(当社)に対し金100万円を支払う。
・甲(取引先)は乙(当社)に対し、金100万円を支払う。但し、乙(当社)が商品の納品をしなかったことを甲が立証した場合は、この限りではない。

A:

Q:合意管轄とは何でしょうか。
A:

2 こちらの意思をしっかりと示しましょう。

 ・多少のリスクを抱えても利益を目指すのか。
 ・とりあえずは前に進めることが必要なのか。
 ・撤退の可能性はどの程度あるのか。

3 具体化しましょう。

【例】連絡が取れなくなった場合は解約するという文言
 →10日以上手紙、メールへの返事がない場合は解約する
 に変更する。

【例】不履行があった場合は解約するという文言

→○○日までに支払がない場合には契約を解除できるなど、不履行の内容を一読して分かるように変更する。

□もしこうなったらどうなるか?を常に問うのが大切です。

4 分からないことは分からないといいましょう。

□違和感を感じたり、意味の分からない条項があれば、その意味を取引相手に尋ねてください。

□相手もよく分かっていないようなことも多いので、そのままにせず、弁護士、税理士、場合によっては消費者庁、金融庁、市役所にも遠慮なく相談してください。

5 お互いに取ってメリットとなる契約書にするのが大切です。


長い付き合い、長い商売を見据えた誠実な契約書とすることが何よりも大切です。


Q:公序良俗違反、優越的な地位の濫用とは何か。
A:

第8 弁護士への相談の仕方

1 弁護士にチェックを頼むとどの程度費用がかかるのでしょうか

□顧問契約の内容は弁護士によって様々です。一般的には、契約書をメールにて送付頂き、簡単にコメントをする程度ならば、顧問サービスの範囲内とすることが多いのではないでしょうか。要する時間制限や回数の制限を設けさせて頂き、一定時間以上は別途費用が発生する、という契約とさせて頂くこともあります。

□定型的ではない特殊な契約書の場合、あるいは契約書を一から作成していく場合、費用を頂くのが通常です。例えばタイムチャージ3万円の弁護士なら、5時間ほどの作業ならば、15万円ほどとなります。

2 弁護士に契約条項の交渉まで依頼できるでしょうか。

あまり一般的ではありませんが、契約書作成と紛争解決がセットになっており、特に紛争解決の比重が大きい場合は、弁護士が窓口となることもあります。

【例】
・クレームや損害賠償請求を受けた後の示談書作成
・商標権侵害の警告書が届いた後に、当該商標の使用方法を合意する場合
・事業譲渡におけるリスクを想定した契約書作成

3 弁護士に契約書チェックを依頼する場合の注意点

□ 関連する資料はできる限り多めにお送りください。

□ 弁護士だからこれぐらい知っているだろうという前提はできる持たないでください。関連法令、税務上で気になるところ、主務官庁の許可が必要か不明な点等もお教え下さい。弁護士は法律の専門家ですが、法律は日々改正が続いており、官庁や弁護士会の研修を受け、本を読み勉強をしているのが実情です。

□ 業界慣行や社内事情もお教えください。

□ 契約交渉の経緯、既存取引の有無、その際の契約書の有無をお教えください。

□ 相手方の情報もお教えください。

□ 社内決済の流れもお教えください

□ いつまでにコメントが必要か、回答が必要か、納期もある程度お教え下さい。

改正民法における主観的要件について (民法改正 弁護士・法律学習者向け)



民法総則の「意思表示」の節ところでは、旧民法において、条文上は「善意」としか書かれていないところで、「無過失」まで必要なのか、「無重過失」でいいのか、「善意」で足りるのか、など論点があり、司法試験受験生はそれを覚えるのが面倒でした。


改正民法では、この主観的要件について、条文上で明確に書き分けてくれています。


例えば、錯誤取消しのときの第三者保護に関する規定(95条4項)では、以下のとおり「善意でかつ過失がない」とはっきりと書いてくれています。

第95条4項 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。


また、詐欺取消しのときの第三者保護に関する規定(96条3項)でも、以下のとおり「善意でかつ過失がない」とはっきり書いてくれています。

第96条3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。


その一方で、心裡留保の第三者保護に関する規定(93条2項)では、 単に、「善意」としか書いていません。

93条2項 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。


このように、条文上、「善意」と「善意でかつ過失がない」という風に書き分けられていることから、93条2項の心裡留保の場合には、相手方は、過失があっても「善意」であれば保護してもらえることが分かります(前々回のブログで書いたように、自分で心裡留保したような表意者よりも、第三者を保護してあげる要請の方が強いから)。


以上のとおり、民法総則の意思表示のところは、主観的要件が条文上で使い分けられるようになりましたので、受験生的には覚えることが減って楽になりました!

ただし、類推適用で使っていく場面では、やはり論証をして、動的安全と静的安全のバランスを調整して主観的要件を決めて行く必要があるのだと思います。
そのため、表意者の保護か第三者の保護か、という利益調整の感覚や考え方については、しっかりと身につけておく必要があります。

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 法律トラブルはすぐに弁護士に相談することが大切です。
 名古屋、久屋大通駅から徒歩1分の愛知さくら法律事務所へお気軽にご相談ください。

詐欺 (民法改正 弁護士・法律学習者向け)



こちらもそこまで改正はないですが、一応、詐欺(民法96条)もやっておきます。



96条1項~3項のうち、第三者の詐欺についての2項と、第三者保護規定の3項についてそれぞれ改正がされています。

(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。


2項と3項について、主観的要件が、改正前の民法から変わっていますので覚えておきましょう。




【96条2項 第三者の詐欺】

第三者の詐欺とは、CさんがAさんを騙したため、騙されたAさんがBさんに対して瑕疵のある意思表示をしてしまった場合です。

このとき、旧民法では、AさんがCさんに騙されていることをBさんが「その事実を知っていたときに限り」(旧民法96条2項)、Aさんは意思表示を取り消せるとされていました。

ただ、Aさんは、Bさんに対して、「私が騙されていたのを、あなたも知っていただろ」ということを証明しないと取り消せませんでしたので、やや厳しすぎると言われていました。

そこで、Bさんが「知っていた」(悪意の)場合だけでなく、Bさんに過失がある場合にも、Aさんは取り消せるようにしました。

それが96条2項です。


96条2項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。




【第三者保護規定 96条3項】

詐欺による意思表示を前提として、新たに法律上の利害関係に入った者がいた場合、詐欺で取り消したことを、その第三者に対抗できるかという問題です。

このとき、第三者が保護されるための主観的要件について、旧民法では、条文上は「善意」とだけ規定されており、解釈としても無過失までは要求しないとも考えられていました。


旧96条3項「前2項の規定による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない」



これについて、「善意無過失」まで求めるんだということで、条文上明記されました。

つまり、第三者としては、保護してもらうために善意無過失まで必要になったのです。


96条3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

表意者は、詐欺の被害者で帰責性が小さいため、第三者を保護してやるために求める要件を厳格なものとした訳です。


96条の詐欺についての改正は、これだけです。




☆☆
 法律トラブルはすぐに弁護士に相談することが大切です。
 名古屋、久屋大通駅から徒歩1分の愛知さくら法律事務所へお気軽にご相談ください。

心裡留保 (民法改正 弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文



たいした改正もないですが、一応、心裡留保(民法93条)もやっておきます。

心裡留保とは、表示行為が内心的効果意思と異なって解されることを、表意者が承知しながらする意思表示のことを言います。

本当はそんなお金も気持ちもないのに、「1兆円あげるよ」という場合ですね。



心裡留保の意思表示がされた場合、相手方の主観によって、その意思表示が無効になるかどうか変わってきます(93条1項)。

(心裡留保)
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。




さて、改正との関係では、このときの相手方の主観の対象について、条文上の表現が変わっています。

旧民法では、「ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする」となっていました。

しかしながら、「表意者の真意」の内容まで知らんよ、人の心なんぞ読めないし、という突っ込みが入れられていたところで、実際には、表意者が自分の真意とは違う意思表示をしてるな~(本当は「1兆円」なんてくれる気ないだろうな)、心裡留保してるな~、ということについて認識または認識可能性があればよいとされていました。

このことを明文化するために、新民法では、相手方の認識の対象が、「真意」ではなく、「その意思表示が表意者の真意ではないこと」という形で書き換えられています。

93条1項但し書 「ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」



あとは、93条に新しく2項が新設され、第三者保護の規定が設けられました!

心裡留保無効となったとき、その無効を第三者に対抗できるか…、という場合に、従前は民法94条2項を類推適用していました。

しかし、なんと、93条2項が新設されましたので、もうわざわざ94条2項を類推適用する必要がなくなりました!!

司法試験受験生が好きだった論点が1つなくなってしまった訳です。

93条2項 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。


このときの第三者の主観的要件は、「善意」で足ります。

自分から真意でない意思表示をするような面倒くさい表意者ですから、第三者保護のための要件は緩めとなっています。

93条の心裡留保関係はこれだけです。

☆☆
 法律トラブルはすぐに弁護士に相談することが大切です。
 名古屋、久屋大通駅から徒歩1分の愛知さくら法律事務所へお気軽にご相談ください。

錯誤2 (民法改正 弁護士・法律学習者向け)



重要な改正のあった「錯誤」について、2つの類型の錯誤が明文化されたとお伝えしました。

95条1項1号は、「意思欠缺の錯誤」です。従来からの一般的な錯誤です。

同2号が、いわゆる「動機の錯誤」(基礎事情の錯誤)です。

認められるための要件の内容は前回お伝えをしましたので、各錯誤の類型ごとに要件を整理すると、以下のとおりとなります。


【95条1項1号、意思欠缺の錯誤の要件】

1)意思表示に対応する意思を欠く(95条1項1号)
2)その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること(95条1項柱書)


【95条1項2号、動機の錯誤の要件】

1)表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反すること(95条1項2号)
2)その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること(95条1項柱書)
3)その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと(95条2項)



さて、錯誤が認められた場合の「効果」はというと、無効ではなく、「取消し」へと改められました。

(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

改正前から判例は、錯誤無効を「取消的無効」であると考えていましたが、この判例通説が反映された改正となっています。


また、これにともない、詐欺取消しの場合と同様に、取消し前に取引に入った第三者を保護するための規定を設けました。それが95条4項です。

95条4項 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

明文で、第三者の「善意無過失」まで求めています。

錯誤は心裡留保や虚偽表示に比べれば表意者の帰責性が小さいため、第三者の保護のための要件を無過失まで求めて厳しくしている訳です。


そんな錯誤取消しですが、従来通り、表意者に「重過失」がある場合には、取消しの主張が制限されることになります。

旧民法では、95条但し書で「ただし、表意者に重大な過失があったときは…」と規定されていましたが、改正民法では新たに3項として独立して規定されています。

95条3項 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

この条文の規定ぶりから分かるように、表意者による錯誤取消しの主張に対して、相手方はいわば抗弁として、この95条3項柱書に基づき「重過失があるから取消しができない」と主張することになります。

そして、その再抗弁的な位置づけで、95条3項1号及び2号があります。

1号は、相手方の悪意重過失です。
表意者に重過失がある場合には錯誤取消しを認めないのは、相手方の取引の安全を保護するためですが、その相手方が悪意重過失ならば保護に値しないからです。

そして2号は、いわゆる共通錯誤の場合です。このときもお互いに錯誤に陥っていた訳で、取り消して話を白紙に戻しても相手方としても仕方ない訳です。

錯誤については、「無効」から「取消し」になった以外、従来の判例や通説が条文化されただけですので、条文を読めば問題なく対応できるかと思います。

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錯誤 (民法改正 弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文


重要な改正のあった、「錯誤」についてです。


重要な改正と言いましたが、内容は簡単です。

ポイントは2つ。

1)いわゆる「動機の錯誤」が明文化されたこと

2)効果が「無効」ではなく「取消し」になったこと


です。


それぞれについて簡単にコメントします。

まず、従来から認められていた「動機の錯誤」の判例法理が明文化されました。


そのため、「錯誤」については、明文で2つの類型の錯誤が認められることになりました。
それが、民法95条1項の1号と2号です。


(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

1号は、「意思欠缺の錯誤」です。従来からの一般的な錯誤です。
 
2号が、いわゆる「動機の錯誤」(基礎事情の錯誤)です。
 

95条1項柱書にある、「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」とは、旧民法における「法律行為の要素に錯誤があったとき」(要素の錯誤)を言い換えたものです。
 

「要素の錯誤」の定義は、
 表意者が意思表示の内容の主要な部分とし、この点について錯誤がなかったら、表意者は意思表示をしなかったであろうし、意思表示をしないことが一般取引の通念に照らして至当
というもので、司法試験受験生は皆さん暗記していました。

上記95条1項柱書の「重要なもの」という要件は、この「要素の錯誤」の内容を言い換えたものですので、基本的には従来の考え方で大丈夫なようです。

つまり、錯誤がなければ、本人も一般人も、意思表示をしなかったであろう場合ということです。

 

この「重要なもの」という要件については、条文の柱書に規定されていますので、95条1項1号の「意思欠缺の錯誤」の場合でも、2号の「動機の錯誤」の場合でも、いずれでも必要になります。
 

また、2号の「動機の錯誤」については、従来の判例通説どおり、動機が表示されたことが必要となります。
 

ここでいう「表示」とは、単に“動機を口に出していた”というだけではだめで、従来の判例通説どおり、基礎事情が法律行為の内容になっていたことが必要です(「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」)。

95条2項 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。


 
長くなってきたので、続きます。

次回、各錯誤の類型ごとに、要件を整理します。

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無効・取消し(民法改正、弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文


次は、民法総則の「無効及び取消し」の条文についてです。

意思表示の瑕疵などにより法律行為が取り消されると、取り消された行為は、はじめから無効であったものとみなされます。

このことは民法121条で規定されており、旧民法から条文はあまり変わっていません。

(取消しの効果)
第121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。


さて、法律行為が最初から無効であったり、取り消されて最初から無効になった場合、原状回復をどうするかという点についてです。

この無効・取消しの場合の効果についての条文がなかったため、以前までは、不当利得に関する民法703条、同704条を使用していました(大判大3.5.16)。

改正民法では、この部分について枝番で条文が新設されました。
それが、民法121条の2です。

民法121条の2 第1項 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。


原状回復について、今後は703条・704条ではなく、民法121条の2 第1項を使います。 司法試験の論文試験などでは条文の引用を間違わないように注意が必要です。
 


そして、試験対策的には、民法121条の2 第2項が重要です。

 

この条文では、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者について、返還義務の範囲を修正し、善意の給付受領者の返還義務が現存利益に限定されています。

 
無効な無償行為とは、例えば贈与が無効だった場合などです。
この場合には、無効について善意だった者は、現存利益の返還で足ります

民法121の2 第2項 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。


 

「無効な無償行為」の「善意の受益者」は、覚えておきましょう。

これ、逆に言えば、いくら善意であったとしても、有償行為については、現存利益の返還だけでは足らないということですので注意が必要です。


703条の不当利得の場合、善意者ならば現存利益の返還だけでよかったはずですので、その意味で121条の2は、不当利得に関する703条・704条の特則的な規定です。

 

この民法121条の2は、司法試験受験生の短答式試験的には必須だと思います。
 

(原状回復の義務)
第121条の2 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

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時効の更新・完成猶予について4(弁護士・法律学習者向け)

弁護士 岡田貴文


 さらに、時効の完成猶予事由及び更新事由です。

【催告による時効の完成猶予】


 「催告」については旧法と変わりません。

 催告は、権利者が権利行使の意思を明らかにしたに過ぎませんので、6か月の完成猶予が認められるだけです(民法150条1項)。

 そして、催告による完成猶予されている間の再度の催告は、時効完成猶予の効力を持ちません(民法150条2項)。法律学習者であれば誰でも知っている判例法理(大判大正8年6月30日)が明文化されたものです。

(催告による時効の完成猶予)
第150条 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。


【協議を行う旨の合意による時効の完成猶予】


 「協議の合意」という新しい制度です。

 権利についての協議を行う旨の合意書面でされたときは、権利者が権利行使の意思を明らかにしている訳ですので、時効の完成猶予です。

 ポイントは、「書面で」の合意という部分です。


 猶予期間は、①合意から1年が経過するまで、②1年より短い期間を定めたときはその期間が経過するまで、③途中で協議続行の拒絶通知をしたときはその通知の時から6か月が経過するまで、のうちいずれか早いときまでです。


 協議の合意の期間中に、再度の合意によってさらに完成猶予ができますが、最長は5年までです。

 面白いのは、催告によって時効の完成が猶予されている間に協議合意をしても、その協議合意により時効の完成は猶予されませんので注意が必要です。

 このあたりは、前述した催告中の再度の催告と同じイメージです。

(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第151条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
(以下省略)


【承認による時効の更新】

 条文の順番にお話してきたら、一番当たり前のことが一番最後になってしまいなした。
 当然ながら債務者による「承認」時効の更新事由です。
 債務者が、債権債務の存在を認めて権利の存在についてひとまずの確証が得られている訳ですから、時効の更新事由となるわけです。

(承認による時効の更新)
第152条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。

 長くなってしまいました。

 以上でお話ししたように、時効の「完成猶予」と「更新」については、
「権利者が権利行使の意思を明らかにした」と評価できる事実が生じた場合が完成猶予とし、「権利の存在について確証が得られた」と評価できる事実が生じた場合が更新
というイメージで押さえておくと、頭に入りやすいのではないかと思います。

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