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契約書作成の基礎知識

弁護士 森田祥玄

企業担当者様向けに、契約書を取り交わす際に知って頂きたい基礎知識の勉強会を行うことがあります。コロナ禍により、Zoomでのセミナーが主流になっておりますので、私どもの表示用も兼ねてレジュメをアップいたします。契約書のチェックや作成は顧問弁護士業務の中心ですので、ご希望がございましたら遠慮なくお問い合わせください。

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第1 前提知識

1 契約はいつ成立するのでしょうか。意思の合致とは、どのような意味でしょうか。

  Q:署名だけあり、印鑑のない契約は有効でしょうか。
 A:

 Q:書面を交わさず、メールのやり取りだけで行った契約は有効でしょうか。
 A:

 Q:書面を交わさず、電話のやり取りだけで行った契約は有効でしょうか。
 A:

2 契約書は何のために存在するのでしょうか。

□合意内容の確認
□いざ紛争となった際の証拠

3 契約書がない場合の紛争例

(例)契約書なく工事を進めた。

□2週間ほどかけて準備を進め、重機も現場にいれ工事を開始したところ、相手方の担当者からそもそもまだ契約は締結していない、他の業者に依頼予定である、との連絡があった。

□2か月ほど工事を行い7割ほど完成をしたところで、突然、元請けから工事を中止するとの連絡があった。やむなく7割分の請求書を送付したら、工事完成前なので一円も支払えないと言われた。

□無事工事が完成して、一般的な基準で費用を請求したところ、高すぎると言われた。

4 裁判のルール

原則として請求をする側が、権利が存在することや、その金額を立証する必要があります。契約書がなければ、メール、LINE、見積もり、請求書、その他一切の事情から立証していく必要があります。

第2 契約条項の修正

1 契約書の条項をどのように修正すればよいのでしょうか。

【例1】
「引渡ができなかった場合、損害を賠償しなければならない」とだけ記載があった場合、どのような修正が考えられるでしょうか。

Q「引渡ができなかった場合、実際の損害の有無にかかわらず、100万円を賠償しなければならない」という記載があった場合、このような条項は有効でしょうか。

A:

Q「引渡ができなかった場合、損害として100万円と、必要となった弁護士費用を賠償しなければならない」という記載があった場合、このような条項は有効でしょうか。

A:

→契約は自由に定めることができるのが、大原則。
※下請法、労働基準法、借地借家法、消費者契約法、特定商取引法、農地法、利息制限法など、当事者の意思より優先する強行法規も存在します。

 【例2】
「引渡ができなかった場合、契約を解除することができる」という記載があった場合、いざトラブルが起きた場合の解除手順が不明確となる。

変更例:「令和○年○月○日までに甲の指定場所に納品できなかった場合、甲はメール、文書のいずれかの方法により契約を解除することができる。」

変更例:「令和○年○月○日までに甲の指定場所に納品できなかった場合、本契約は自動的に解除される」

2 契約書の記載方法は法律上の決まりはありません。

契約書には、難しい言葉を使う必要はありません。ですます調でもかまいませんし、契約書の中に図や表、絵、写真を入れても問題ありません。お互いが契約内容を理解していることが大切です。

第3 契約書の体裁

1 管理、ファイリングのしやすさも重要です。

 ※実際の紛争(訴訟)は、契約書作成から時間が経過してから発生します。

【例】
 30年前に賃貸借契約を結んでいたが、貸主は20年前に死亡しており、相続の際に子ども達と覚え書きを作成していた。今回、立ち退きを巡りトラブルとなった。一番古い契約書、覚え書き、その後に作成した契約書などがバラバラとなり、関係者全員が、どれが最新の合意内容なのかよく分かっていない。

□紙の枚数は少ない方がよく、1枚に納めることができるのなら裏表印刷にする、A3にする、文字の大きさを整えるなどの工夫をしてもよいかと思います。
 
□契約書のファイリングルールも決めておきましょう。PDF化し、事案ごとにフォルダに整理し、バックアップも取っておくべきです。また、担当者の交代があった際の引き継ぎのルールも決めておきましょう。

2 電子契約とは

 オンライン上で契約を締結できるサービスです。様々な業者がサービスを展開しており、問い合わせをすればオンラインで説明会を開催してくれます。現状、多数の業者がサービスを提供しており、どこがおすすめ、とまでいえる状況にはありませんが、私見をお伝えすることは可能です(私(弁護士森田)も特定の業者と契約をしています)。収入印紙削減、管理コスト削減がメリットです。

第4 印鑑の基礎知識

「私文書の作成名義人の印影が、その名義人の印影によって押印された事実が確定された場合、反証がない限りその印影は本人の意思に基づいて押印されたものと事実上推定され文書全体の真正が推定される」(最高裁昭和39年5月12日判決)
「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」(民事訴訟法228条4項)

Q:捨て印とはどういう意味でしょうか。
A:

Q:契印と、割り印の違いは何でしょうか。
A:

第5 連帯保証人の注意点

1 実印の基礎知識

Q:連帯保証人は実印で押印を貰わなければならないのでしょうか?
A:

Q:実印を押して貰った場合、印鑑証明書の添付が必要でしょうか?
A:

Q:印鑑証明書は、3か月以内でなければ効力がないのでしょうか?
A:

Q:実印は個人にしかないのでしょうか?
A:

2 できる限り面談を

本人に、将来的に債務を負う可能性があること十分に分かって頂くことが重要です。面談、Zoom、LINE、電話等、方法に法律上の定めがあるわけではありませんが、連帯保証の意味をしっかりとお伝えしましょう。

3 無制限に保証をする連帯保証契約は認められていない。

連帯保証人を取るときは、連帯保証人が最大でいくら負担するのか、一読して分かるように明記する必要があります(「丙は、甲が負う債務を、金300万円を限度として連帯保証する」等)

第6 収入印紙

 悩んだらタックスアンサーを確認してください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/inshi301.htm

Q:取引基本契約書の印紙は?
A:

 売買の場合、単発1回のみなら収入印紙は不要ですが、1つの契約の中に売買と請負の要素がある場合など、悩ましい事案も多くあります。悩んだら必ず税理士、弁護士に相談をしてください。

Q:収入印紙を貼っていない契約書の効力は?
A:

Q:収入印紙を節約する方法は?
A:手持ちをコピーでよしとする、全て電子媒体だけで完結するなど。少額の取引だが、取引基本契約書は必要である、という需要が多数ある場合は、電子契約の導入を本格的に検討したい。

第7 契約書と向き合う基本的な姿勢

1 可能な限り、契約書文案は当方で準備しましょう。

・相手方が提示された契約は、やはり相手方に有利になりがちです。

【例】
Q:下記2つの記載には、どのような違いがあるでしょうか。

・乙(当社)が商品の納品をした場合には、甲(取引先)は乙(当社)に対し金100万円を支払う。
・甲(取引先)は乙(当社)に対し、金100万円を支払う。但し、乙(当社)が商品の納品をしなかったことを甲が立証した場合は、この限りではない。

A:

Q:合意管轄とは何でしょうか。
A:

2 こちらの意思をしっかりと示しましょう。

 ・多少のリスクを抱えても利益を目指すのか。
 ・とりあえずは前に進めることが必要なのか。
 ・撤退の可能性はどの程度あるのか。

3 具体化しましょう。

【例】連絡が取れなくなった場合は解約するという文言
 →10日以上手紙、メールへの返事がない場合は解約する
 に変更する。

【例】不履行があった場合は解約するという文言

→○○日までに支払がない場合には契約を解除できるなど、不履行の内容を一読して分かるように変更する。

□もしこうなったらどうなるか?を常に問うのが大切です。

4 分からないことは分からないといいましょう。

□違和感を感じたり、意味の分からない条項があれば、その意味を取引相手に尋ねてください。

□相手もよく分かっていないようなことも多いので、そのままにせず、弁護士、税理士、場合によっては消費者庁、金融庁、市役所にも遠慮なく相談してください。

5 お互いに取ってメリットとなる契約書にするのが大切です。


長い付き合い、長い商売を見据えた誠実な契約書とすることが何よりも大切です。


Q:公序良俗違反、優越的な地位の濫用とは何か。
A:

第8 弁護士への相談の仕方

1 弁護士にチェックを頼むとどの程度費用がかかるのでしょうか

□顧問契約の内容は弁護士によって様々です。一般的には、契約書をメールにて送付頂き、簡単にコメントをする程度ならば、顧問サービスの範囲内とすることが多いのではないでしょうか。要する時間制限や回数の制限を設けさせて頂き、一定時間以上は別途費用が発生する、という契約とさせて頂くこともあります。

□定型的ではない特殊な契約書の場合、あるいは契約書を一から作成していく場合、費用を頂くのが通常です。例えばタイムチャージ3万円の弁護士なら、5時間ほどの作業ならば、15万円ほどとなります。

2 弁護士に契約条項の交渉まで依頼できるでしょうか。

あまり一般的ではありませんが、契約書作成と紛争解決がセットになっており、特に紛争解決の比重が大きい場合は、弁護士が窓口となることもあります。

【例】
・クレームや損害賠償請求を受けた後の示談書作成
・商標権侵害の警告書が届いた後に、当該商標の使用方法を合意する場合
・事業譲渡におけるリスクを想定した契約書作成

3 弁護士に契約書チェックを依頼する場合の注意点

□ 関連する資料はできる限り多めにお送りください。

□ 弁護士だからこれぐらい知っているだろうという前提は持たないでください。関連法令、税務上で気になるところ、主務官庁の許可が必要か不明な点等もお教え下さい。弁護士は法律の専門家ですが、法律は日々改正が続いており、官庁や弁護士会の研修を受け、本を読み勉強をしているのが実情です。

□ 業界慣行や社内事情もお教えください。

□ 契約交渉の経緯、既存取引の有無、その際の契約書の有無をお教えください。

□ 相手方の情報もお教えください。

□ 社内決済の流れもお教えください

□ いつまでにコメントが必要か、回答が必要か、納期もある程度お教え下さい。