業務内容

相続・遺言

相続・遺言のご相談について

 遺言・相続は、法改正や新たな最高裁判例が頻繁に出される分野です。愛知さくら法律事務所では、継続的に遺言作成や遺産分割協議の依頼を受けております。また長年の経験の蓄積と、新たな知識のブラッシュアップにより、常に依頼者のご期待に添えることができるよう研鑽を積んでおります。

 弁護士ならば誰でも相続の案件を対応できると思われるかもしれませんが、多くの弁護士は同時に様々な類型の案件を扱うため、あまり相続案件を扱ったことない、という弁護士も多くいます。また、相続は多数の制度や法律が錯綜する分野でもあります。社会保険制度、税務、登記など、複合的に関わります。愛知さくら法律事務所では、ファイナンシャルプランナーの資格を有する弁護士も所属しており、財産管理という側面からも適切なアドバイスが可能です。加えて、愛知さくら法律事務所では、税理士業務を取り扱うことのできる弁護士(通知弁護士)も所属しております。税理士とも協力のうえ、二次相続への配慮や現段階で対応可能な節税対策などを相談することも可能です。

また、愛知さくら法律事務所には、相続関連の文献の共著者となっている弁護士もおります。

遺言を作成するのも、相続で紛争となるのも、一生に何度もあることではありません。どの弁護士に依頼をするのかもよくご検討頂き、自分が一番知識があると感じた弁護士に依頼をしてください。

解決事例

事例
1

 再婚をした妻に全て相続させるとの遺言を遺し、子らに遺留分の放棄をして頂いた例

事案概要

 私には前妻との間に子どもが二人おり、今は再婚をした妻と二人暮らしです。再婚をした妻は私の死後の遺産分割を不安に思っております。どのような遺言を遺せばよいでしょうか。

解決方法

 核家族化や離婚の増加などにより、遺言を作成したいというご相談は増えております。再婚をした人、子どもがいない人、事業を営む人、ペットを飼っている一人暮らしの人、父子家庭や母子家庭で未成年の子どもがいる人、相続人が多く複雑な人、財産が多く複雑な人など、ここで一手間かけて遺言を作成することで、遺された人が助かることがあります。
 ご相談事例のような再婚をした場合には、時間が許すのならば、お子様に遺留分の放棄(民法1049条)をお願いすることが考えられます。遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が必要となります。もちろん無条件に放棄をしてくれることもないでしょうから、一定額の生前での贈与を約束することも考えられます。
 遺留分の放棄が難しいようなら、遺留分に配慮をした遺言を作成することが考えられます。内容は平等なものでも構いませんし、配偶者の今後の生活が不安ならば配偶者の居住している不動産を含む総資産の4分の3を相続させ、お子様2名に合計総資産の4分の1を相続させるような遺言を作成することも考えられます。
 遺された配偶者が自らお子様達と交渉や協議を行うことが難しいのではないかとご不安な場合、遺言で、遺言執行者を定めておくことが考えられます。遺言者が死亡したあと、遺言の内容を実現する人が必要となります。遺言執行者を定めておけば、遺言の適正かつ迅速な執行が実現できます。遺言執行者は、弁護士を指定することで、遺言の内容をスムーズに実現することができます。なお、愛知さくら法律事務所では弁護士が複数人所属しておりますので、担当弁護士の死亡など万が一の事態にも対応可能です。
 遺言の内容を工夫することで遺された相続人が助かります。一緒に一番いい遺言を考えましょう。

解決事例を見る

事例
2

 子どものいない夫婦が、それぞれ複雑な遺産分割を避けるために他方配偶者に全て相続させるとの遺言を遺した例

事案概要

 私は子どものいない夫婦として、二人で幸せに暮らしてきました。私が死亡したら当然妻が全て相続すると思っていたのですが、そうではないと聞きました。私の死亡後に苦労をかけないような遺言を作れないでしょうか。

解決方法

 子どものいない夫婦の場合、相続人は他方の配偶者1人であると誤解されている方がいます。しかし民法887条及び民法889条、民法900条はそのような定めにはなっておりません。民法900条の第2項には、配偶者と親を遺して死亡した場合、配偶者が3分の2、親が3分の1を相続するとされています。民法900条の第3項には、配偶者と兄弟姉妹を遺して死亡した場合、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1を相続するとされています。
 とくに、兄弟姉妹に相続権があるという発想にはなかなかならない方がいらっしゃり、遺産分割時に紛争となりがちです。兄弟姉妹もしっかりと権利主張をする人もいらっしゃるでしょうし、兄弟姉妹が死亡し、甥や姪が相続人となっていれば、より一層、親族関係が薄くなり、遠慮もなくなります。
 このような場合、「自分が死亡した場合、全て配偶者が相続する」という、ごく簡単な遺言を遺しておけば、紛争を防ぐことができますし、遺された配偶者も助かります。
 兄弟姉妹には遺留分権利者ではありませんので(民法1042条)、配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、配偶者に全て相続させると遺せば、兄弟姉妹もその遺言の内容と異なる権利主張はできません。
 仮に現在兄弟姉妹と仲がよかったとしても、何十年も先には誰がどのような経済状態になっているか分かりませんし、どのような人間関係になっているか分かりません。
 子どものいらっしゃらない夫婦の場合は、是非積極的に遺言を活用し、他方配偶者が不毛な紛争に巻き込まれないよう、工夫をしてください。

解決事例を見る

事例
3

 余命宣告をされたため、紛争となる可能性は低いが念のため遺言を作成し、遺産分割をスムーズにした事例

事案概要

 私は普通のサラリーマンで、配偶者は他界しており、子どもは3人おります。この度、病気が見つかりました。私は土地・建物、ネット証券での株式、国債、預貯金と、資産を分散させておりました。子ども達は仲はいいので、おそらく揉めないとは思うのですが、遺言を作っておいた方がよいのでしょうか。

解決方法

 自分は標準的な家庭だし、遺言を作らなくてもたぶん大丈夫だろう、とお考えの方も多いかと思います。しかし、実際には、まったく交渉の余地のない遺産分割協議というものはありません。土地と建物は誰が相続するのか、住み続けるのか、売却するのか、誰か1人が取得するとしてその価格はどうやって定めるのか、統一的なルールがあるわけでもありません。有価証券も、全て換価して分けるのか、誰か1人が引き継ぐのか、決める必要があります。換価するとしていつ換価するのか、議論をする必要があります。
 また、子ども達の仲がいいと思っていても、実際の遺産分割で紛争が深まる案件は、子ども達の配偶者の意見も強く反映されます。子どもの背後にはその配偶者がいます。もしかしたら揉めるかもしれない、という場面も想像できるのではないでしょうか。
 ご相談の案件では、例えば「土地と建物は名古屋に残ったAが取得する。有価証券はそのような取引が好きなBが取得する。生命保険は節税のために1500万円までは活用し、Cを受取人とする。遺言作成日段階で土地と建物、有価証券の価格はこれぐらいだろうと決めてしまい、それを考慮したうえで残りの預貯金を公平に分ける。」などの遺言を遺しておけば、争う余地がなくなります。
 また、相続税対策で生前贈与を活用される方が非常に多くいらっしゃいます。誰に、どのような生前贈与を行うかはもちろん自由なのですが、それが死後に紛争の種となります。遺言で、生前贈与については遺産分割時には考慮しない(持ち戻し免除の意思表示)を遺しておけば、誰にどのような生前贈与を行ったかで揉めることもなくなります。
 それほど大きな生前贈与は行わないよ、と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、節税対策については政策的に期間限定で制度が制定されることもあります。例えば教育資金一括贈与(受贈者1人につき1500万円までは贈与税が課税されない制度)のような制度は、税理士や弁護士のアドバイスのもとに活用することがあります(例えば相続税が15パーセントかかると仮定すると、1人1500万円を贈与しておけば225万円の節税となります)。今後どのようなお金の動かし方をするか分からないからこそ、子ども達のために、遺言を遺しておく必要があるのです。
 ごく普通の家庭だと思っていても、遺言作成にかける弁護士費用や公正証書に納める費用は、遺産分割でトラブルになるリスク、コストに比べれば、決して高いものではありません。
 是非、弁護士にご相談頂き、一緒に遺言を作成しましょう。

解決事例を見る

事例
4

 遠縁の親族との遺産分割協議を成立させた例

事案概要

 ある日、突然弁護士から、遺産分割協議を行いたいとの手紙が届きました。遠縁の親族が亡くなり、私が相続人となったそうです。私はどのような対応を取ればよいでしょうか。

解決方法

 遠縁の親族から手紙が届き、遺産分割協議を求められることは珍しくありません。子どもを持たない選択をする夫婦が増え、相続人が兄弟や甥、姪となることも増えました。このような場合、お互い顔も分からないため、親族同士が有する遠慮も少なくなります。
ある人は、甥や姪は当然相続しないと回答するだろう、と考えます。他方、ある人は、自分が相続人である以上は、法律上請求しうる権利は当然に行使すべきである、と考えます。相続に関する考え方は人によってまったく異なりますので、紛争が激化していきます。
また、今回のように、突然自分が相続人となったようなケースでは、被相続人の資産内容を自分が把握できているわけではなく、交渉の主導権は被相続人に近い人物が握ることとなります。提示された資料や資産一覧が正しいのかも分かりません。不動産の価値については、固定資産税評価額にて算出されていることもありますが、固定資産税評価額は時価よりも安いものです。上場している株式の価値についても、相続税申告の際の評価方法を用いて、時価よりも安い金額を計上していることがよくあります。
交付された遺産分割協議書も、「Aは金1000万円を相続する。Bはその余の一切を相続する」など、「その余の一切」に何が含まれているのかよく分からない内容で提示されることもあります。
 弁護士に一任することで、相手方に適切な資料開示の要求ができ、また、気付かないうちに不利な遺産分割協議書にサインをしてしまう事態を防ぐことができます。また、交渉の窓口を弁護士にすることで精神的ストレスから解放されるメリットも大きいものです。
 弁護士に依頼をしたからといって紛争が激化するわけではありません。むしろ弁護士同士の交渉は、法律的な落としどころが分かったうえで協議をいたしますので、紛争の早期解決に資することも多くあります。
 遠縁の親族から遺産分割協議を求める手紙が来る、という事例はその典型ですが、突然巻き込まれた紛争の際は、早めに弁護士に依頼し、窓口を変更することで、スムーズな解決を試みてはいかがでしょうか。

解決事例を見る

事例
5

 遺言の有効性を争い、一定の解決に至った事例

事案概要

 父は複雑な家族関係に配慮し全員に資産が行き渡る公正証書遺言を作成しておりました。その後父は認知症となり、先日亡くなりました。すると葬儀のあとに、相続人の一人が、実は亡くなる数日前に公正証書遺言を撤回した別の遺言がある、といいはじめました。どうしても納得できないので争えないでしょうか。

解決方法

 遺言の有効性、特に自筆証書遺言や特別の方式(民法976条など)の遺言の有効性を争いたいとの希望が出されることは珍しくありません。遺言の有効性を争うことは決して簡単ではありませんが、まずは資料収集を行いましょう。
 最初に取得するのはカルテをはじめとする医療記録の一切です。電子カルテが導入されている病院ではカルテも読みやすくなっており、また、有益な情報が記載されていることが多々あります。相続人であれば病院もカルテの開示に応じますので、各病院に電話をしてカルテ取得の方法を問い合わせましょう。
 また、老人ホームに入所していたのなら、老人ホームに介護記録や日常生活報告書などの記録一切の開示を求めることが考えられます。病院とは異なり老人ホームにはあまり情報開示のノウハウがないこともあります。手紙を送付して返送された資料が全てとも限りません。過去には弁護士会照会を通じて一切の資料の送付を求めても開示されなかった資料が、直接面会をしてお願いをすれば開示されたこともあります。具体的に施設がどのような資料を保有しているのかを考えてお願いすることが重要となります。
 ほかにも、ケアマネージャー所属の法人が独自に介護記録や報告書を保有していることもありますので、開示をお願いしてみることが考えられます。
 加えて、要介護認定を受けていたのなら、市町村に介護認定審査会の資料開示を求めることが考えられます。要介護認定は調査結果や医師の意見書を参考に判断されますので、認知症の有無を客観的に判断する資料として非常に有用となります。
 他にも、ご本人からの毎日のメールや受領した書類、他の相続人からのメールなどが証拠になることもあります。
 これらはあくまで一例です。定型化されている業務でもありませんので、遺言作成時の状況を客観的に明らかにするにはどうすればいいのか、弁護士と一緒に考えましょう。
 仮に遺言の有効性を争えるとしたら、次はどのような手段で争うのかを考える必要があります。一般的には遺言の有効性を争いながら遺産分割調停を起こすことは裁判所は受け付けたがらないものですが、事案によっては話し合いの場を設けることまでは認めることもあります。そうではなく一から訴訟で争うとしたら時間もかかりますので、どのような方法が最も良いかもよくお考えください。
 いずれにしろ、遺言の有効性を争う場合は、予備的には遺留分侵害額請求を行うことになりますので、弁護士へ依頼し交渉をする必要性が高い類型です。また、遺留分に関しては時効もあります。一度弁護士事務所にご相談ください。

解決事例を見る

事例
6

 遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)を行い、一定の金銭受領により解決した事例

事案概要

 私は若いころに実家を離れ名古屋で生活をしておりました。母が亡くなるまで同居をしてくれた兄がおりますので、遺産分割も兄に配慮して合意をしようと思っておりました。すると初七日の場で兄から、「全て兄に相続させる」という遺言があるとして、公正証書遺言を示されました。兄に配慮しようと思っておりましたが、このような一方的な遺言を母に書かせるとまでは思っておりませんでした。正当な権利を行使したいので、依頼できないでしょうか。

解決方法

 公正証書で一人の相続人に全て相続させる、という遺言を遺すことは珍しくありません。本来は遺留分に配慮した遺言が望ましいのですが、実際には何年後に自分が亡くなるかも分からず、将来どのような財産の変動があるか想定しがたいため、遺留分侵害額請求をされることを覚悟のうえで、あるいは遺留分侵害額請求権を行使しないことを期待して、そのような遺言が遺されます。
 遺留分制度とは、法定相続人(兄弟姉妹を除く)を保護するため、必ず相続財産の一定額を保障する制度をいいます(民法1042条)。ご相談の事案の場合、二人兄弟なら法定相続分は半分ですが、民法1042条で、最低限4分の1の遺留分が保障されています。
 死亡時点の財産に加え、生計の資本としてうけた生前贈与(原則10年分、改正民法1044条3項)も対象となります。
 例えば土地と建物、預貯金の合計で4000万円の遺産を兄が相続するのならば、「遺留分侵害額に相当する金銭の支払い」(改正民法1046条)、つまり1000万円の金銭支払いを請求することができるのです。
 なお、相続法改正前は、金銭ではなく不動産の持ち分も取得する物権的効果が当然に生ずると解されており、遺留分の権利行使を複雑にしておりました。しかし改正後は、シンプルに、遺留分によって生ずる権利は金銭の請求権となり、お金を払え、と求めることになりました。
 最大の注意点は、遺留分侵害請求権を行使するには期間制限があることです。民法1048条には、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する」と定めます。四十九日を待ち、お墓を決め、生命保険の受け取りを行い、預貯金等を整理していれば、あっという間に1年が経過します。早期に弁護士に依頼し、配達証明付きの内容証明郵便で遺留分侵害額請求権の権利を行使する旨、意思表示をしましょう。

解決事例を見る

事例
7

 他の相続人から特別受益の主張が出され、当該主張を排斥した内容での調停を成立させた例

事案概要

 他の相続人から、私が亡き母親から多額の金銭的な支援を受けていただろう、遺産分割ではその分も反映させるべきだ、との主張が出されております。預貯金の取引履歴を全て説明しなければ合意しないと言われ、途方に暮れております。どのように対応すればよいでしょうか。

解決方法

 近年の遺産分割協議では、特別の受益の主張が出され、合意が難しくなる事案が増えています。
 特に平成27年から適用された相続税の法改正により、相続税の基礎控除額が大幅に減額されました(3000万円+600万円×法定相続人の数)。その結果、相続税の適用対象となる相続が増え、相続税対策として一番簡易な方法である贈与の活用が多数なされることとなりました。亡くなられた被相続人はよかれと思って行った贈与であっても、相続人全員への説明が不十分では、後日「長男がそんな贈与を受けていたなんて聞いていなかった。納得できない」などの紛争のもととなります。
 このような、生前に相続分を前渡ししたと評価できる場合、それは特別受益と呼ばれ、その財産も計算上相続財産に加算することがあります。
 但し、生前の贈与の全てが特別受益に該当するわけではありません。民法903条は、「婚姻もしくは養子縁組のため」「若しくは生計の資本として」贈与を受けた場合に、特別受益にあたるものと定めます。
 実務上は、相続分の前渡しと評価できるか、が最も争点となります。例えば不動産の贈与を受けているような場合は特別受益と評価されやすいかと思います。他方、高額な学費の支払いや留学費用、結婚に伴う一部援助については、名古屋家庭裁判所は簡単には特別受益とは認めません。親は子どもを扶養する義務がありますので、扶養義務の履行として行われた贈与や生活の支援は、特別受益には該当されないと考えられています。ポイントは「相続分の前渡し」といえるか否かです。何年も前のこととなると、どうしても相続分の前渡しと判断されにくくなります。
 また、特定の相続人だけが高額な生命保険金を受領している、という相談も受けます。生命保険金は相続税対策として積極的に活用されており、「500万円×法定相続人の数」までは相続税は非課税となります(2019年3月現在)。例えば相続人として子どもが3人いる親ならば、生命保険金の非課税枠は1500万円ですので、生命保険の活用は積極的に検討すべきです。しかしやはり相続人のためによかれと思って行った相続税対策が、新たな紛争を呼び起こすことがあります。長男のみが1500万円を受領していた場合、次男と三男が不満を持つのは必然です。相続人の一人が受け取った死亡保険金は、直接は特別受益にはあたりませんが、著しく不公平といえる特段の事情がある場合には、民法903条1項を類推適用して、特別受益と同様の扱いをするとの判例(最高裁平成16年10月29日)があります。簡単には特段の事情があるとは認定されませんが、亡くなる直前に相続税対策のためだけに生命保険に加入した場合で、他に遺産もないような場合は、例外にあたることもあります。
 また、現金の移動がない、不動産の無償での使用の場合も、特別受益として扱うべきだという主張もだされ、争点となります。例えば親の土地に子どもが建物を建て住み続けていた場合、賃料を取らないことも多いかと思いますが、賃料相当額が特別受益にあたるかが争点となります。
 どうすればこのような紛争を防ぐことができたのでしょうか。実は遺言を作成し、その中に、「生前に贈与したものは相続財産に含めない」との文言を組み込んでおけば、このような紛争を回避できました。これを持戻し免除の意思表示(民法903条3項)といいます。具体的には、「遺言者は、これまで子らにした生前贈与による特別受益持ち戻しについては、このすべてを免除する」というような文言となります。
 いざ紛争となったあとは、「黙示の免除の意思表示があったのだ」という主張を展開することとなりますが、やはり、相続税対策を行いたい方は、遺言作成を相続に詳しい弁護士に依頼をすべきです。
 今回のご相談では、これらの法律上の知識を前提に、相続分の前渡しと評価できるのか、生計の資本と評価できるのか、持戻し免除の意思表示があったといえる事情はないかなどを総合的に判断して、どこまで譲歩をすべきかを検討することになります。

解決事例を見る

事例
8

 遺産分割協議において懸命な介護をしたとの主張を行い、一定の考慮を他の相続人にして頂いたうえで合意をした例

事案概要

 私は母親の介護を1年続け、さらには母親が施設に入ってからも毎日のように面会に行きました。相続の際に、これらの事情は考慮されないのでしょうか。

解決方法

 民法900条は相続分を定めており、これを法定相続分と言います。しかし、ずっと近くにいて、介護をしてきた人の実績を考慮しなければ、不公平な結論となることがあります。
 そこで民法904条の2は、「事業に関する労務の提供」「財産上の給付」「療養看護」その他の方法により、「被相続人の財産の維持又は増加について」「特別」の寄与をした人に対して、一定額有利に扱う制度を定めました。
 これを寄与分といいます。
 ここでのポイントは、「被相続人の財産の維持又は増加」について特別の寄与をしているか否かです。
 ご相談内容のように、施設に入ってから毎日のように面会に行ったとしても、それで母親の財産が維持されるわけではありません。実際に自宅で介護をして、施設に入る費用や専門家に依頼をする費用を減額できたような場合にはじめて、母親の財産が維持された、と評価されます。
 遺産分割の紛争では、被相続人との関係が様々な視点から主張されます。しかし、残念ながらその多くは「被相続人の財産の維持又は増加」には関連がない、と判断されます。
 今回のご相談では、施設入所後の面会は評価されないかもしれませんが、その前の介護は一定の有利な取り扱いが認められる可能性はあります。但し、「特別」の寄与でなければなりませんので、夫婦や親族間の扶助義務、扶養義務の範囲といえるのならば、特別の寄与にはなりません。
 また、実際の相続の現場では、一生懸命介護を行った人(つまり寄与分を主張できる人)は、生前に贈与(特別受益)を受けていることが多くあります。ですので、寄与分の主張と特別受益の主張が混在して争点となります。実際の処理としては、寄与に対する実質的な対価が生前贈与として支払われているとして、寄与分を認めず、且つ、特別受益の主張も認めないことも多くあります。
 また、一生懸命介護を行った、という主張に対しては、「同居をしていたのだから家賃が不要であっただろう。得をしているはずだ」などの反論が出されます。これは、同居に至った経緯などを考慮し、居住の利益があったのか否かを精査していくことになります。
 なお、事業を手伝ったので寄与分を主張したい、という方であっても、相当の給料を受領しているならばそのような主張が難しいのも当然です。
 実際に介護を行ったという事実をどのように金額として算定するかは、統一的な指針は示されておりませんので、裁判所の審判例を分析し、主張を行うことになります。例えば交通事故の際の自賠責保険の支払い基準、介護保険における介護報酬基準等を参考にします。
 寄与分の算定方法は一律ではありませんので、弁護士とよく相談し、過去の裁判所の事例と比べながら、どこまで主張できるのかを検討してください

解決事例を見る

事例
9

 借金を引き継がないように、相続放棄を行った事例

事案概要

 私の父親はいわゆる多重債務者で、長年苦しんでおりました。先日亡くなったとの連絡が私のところに来ましたので、相続放棄をお願いできないでしょうか。

解決方法

 相続をした場合、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述をすれば、相続放棄をすることができます(民法915条)。また、財産が上回るのか、借金が上回るのかの判断が困難という事情がある場合、裁判所に申述すればこの3ヶ月の期間を延ばすことができます(民法915条1項但書き)。
 相続放棄は手続自体は決して複雑ではありませんが、いくつか民法上の論点を抱えております。また、微妙な判断を伴う処理が必要となる場面も多くあります。相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も放棄する手続ですから、当然、プラスの財産だけこっそり引き出すことはできません。あたりまえのことのようですが、例えば被相続人の預貯金をおろして葬儀費用に充当した場合はどうでしょうか。実務上明確にされていない場面も多くあり、自分で判断をする前に早急に弁護士に相談をすべきです。
 また、一度行った相続放棄は撤回できません(民法919条1項)。消費者金融から督促が来たけど、実は弁護士がみれば過払金が発生していたという事案もあります。相続放棄をする必要がないどころか、本来なら100万円以上のお金が返ってきていた、という場面もあり得ます。
 そして相続放棄の本当の怖さは、相続放棄が受理されたあとに、その相続放棄の有効性が争われることです。家庭裁判所の実務では、相続放棄の申述を却下すべきことが明らかな場合を除き,相続放棄を受理するのが実情です。死亡から3ヶ月経過後の相続放棄であっても、相続放棄ができなかった事情によっては受理されます。しかし債権者が「本当は死亡の時点で知っていたのではないか。3ヶ月経過後の相続放棄と評価できるのではないか」と争うことがあります。
 このように、相続放棄手続には潜在的に様々なトラブルが生じ得ます。できる限り弁護士に依頼をして行った方がよいだろうと思います。

解決事例を見る