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駐車場の管理責任

弁護士 森田祥玄

1 コインパーキングの車止めが壊れており車両に傷がついた、駐車場のポールや看板の位置が悪く接触した、というようなトラブルの場合、誰に、どのような損害賠償請求を求めることができるのでしょうか。
2 交通事故の場合、通常、民法709条に基づき損害賠償を求めることが多いかと思います。
しかし、ポールや看板の位置が悪いことに、駐車場管理者の故意・過失を認定することはできるか、難しいところがあります。民法709条の故意・過失の立証責任は被害者側(請求する側)が負いますので、民法709条ではハードルがあがります。
3 そのようなときは、民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)を用いて請求ができるか、検討をします。民法717条本文は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」と定め、ただし書きには「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」と定めます。
 駐車場の設備、例えばポールや看板、車止めなどは「土地の工作物」にあたります。よって、その設置又は保存に「瑕疵」があることまで立証できれば、被害者は、工作物の占有者(土地の所有者や店舗を運営する法人など)に対し損害賠償請求を行うことができます。

 瑕疵があったか否かは、個別具体的な事情によります。通常と異なる態様であったからといって直ちに瑕疵があるわけではありません。例えばコインパーキングのフラップ板があがったままの状態であったため車両が損傷したという事案について、東京地裁平成26年11月7日判決(判例時報2252号89頁)は、進路の安全確認は運転手の基本的注意義務であり、通常の運転方法ならフラップ板は認識可能であったとして、瑕疵がなかったものとしています。但しこの事案は、フラップ板があがったことに駐車場側に責任がなさそうにみえること、利用者は入庫前にフラップ板が下がっていることを確認しなければならないなどの規定があったこと、無人のコインパーキングであり管理方法にも限界があることなども考慮されているものと思われ、一律な基準を示すものではありません。
「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」ことについては、占有者(土地の所有者や店舗を運営する法人など)が立証責任を負います。裁判所は簡単には占有者の責任を否定する判断は出しませんが、例えば台風で看板が落ちていて、その看板に車が接触した事例、などはその判断に裁判所も迷うことがあるかもしれません。
いずれにしろ立証責任は民法709条よりも民法717条のほうが被害者側に有利ですので、駐車場の設置物とのトラブルは、民法709条ではなく、民法717条に基づく請求を検討されることをおすすめします。
4 但し、民法717条であっても過失相殺(民法722条2項)の適用はあります。具体的な事情にもよりますが、駐車場の設備に気付かずに接触をした場合は、何らかの過失が認定されることも多いかと思います。損害の全てを請求できない可能性があることは留意が必要です。
5 また、目撃者がおらず、対立当事者もいないことから、被害者の言い分しか証拠がないような事案もあります。一度帰宅して、修理業者にみてもらい、その修理費に驚いて弁護士に相談をされても、実際にその駐車場で傷がついたのか、立証できないことがあります。
駐車場での単独事故であっても、必ずその場で警察に電話をして、交通事故の報告はしてください。そうすれば裁判でよく利用される「交通事故証明書」を取得することができます。また、簡単なメモ程度ではありますが、警察が事故後に作成する物件事故報告書を弁護士会照会という手続を用いることで取得できることがあります。また、可能な限りその場で駐車場管理者にも連絡を取り、事故があったことを報告しておくべきです。
6 あわせて、事故現場の写真も撮影しておく必要があります。看板が落下していた、などのパターンでは、翌日には片付けられている可能性もあります。事故現場は全体像、車両の損傷箇所、瑕疵が存する箇所等、携帯電話でもかまいませんので、多めに写真を撮った方がよいでしょう。
7 なお、駐車場での単独事故であっても、ご自身が加入されている弁護士費用特約を用いることが可能な場合があります。弁護士費用特約の使用が可能か否か、ご自身の保険会社にご確認ください。