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税理士業務取扱通知弁護士の仕事

弁護士 森田祥玄

1 私は税理士業務を取り扱うことのできる弁護士(税理士業務取扱通知弁護士)です。日常的に税理士業務を行うわけではありませんが、税理士の先生方から相談を受け、税務調査時に意見書を作成したり、あるいは審査請求の代理を行うことはあります。
2 私の主観としては、結論が覆えることがある類型として、重加算税の賦課決定を挙げることができます。
3 通則法第68条第1項及び第2項が定める重加算税の制度は、納税者が過少申告又は無申告について隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税又は無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科する制度です。
4 したがって、重加算税を課するためには、納税者が過少申告行為を行った、というだけでは足りず、過少申告行為や無申告そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在することが必要とされています。
5 参考にされるのが、最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決です。やや古い判例ですが、今でも同判例の射程内なのか、射程外なのかが争われます。同判決は、「重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告すること、又は法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をし、又はその意図に基づき法定申告期限までに申告をしなかったような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解すべきである」としております。
6 この判決文は、「過少申告の意図を実現するための特段の行動があり、その行動によってその意図が外部からもうかがい得るような場合に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在する」としていますので、この、「納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」に該当するかが争われます。税務署は比較的広くこの特段の行動にあたると主張をすることもありますが、同最高裁判例の最高裁判所調査官解説によると、「通常であれば保管しておくと考えられる原始資料をあえて散逸するにまかせていた場合」「税務調査に対する非協力、虚偽答弁、虚偽資料の提出等の態度を採った場合など」などを例としてあげております。税務調査に備えて虚偽の資料を作っていたり、意図的な廃棄をしていたような場合、あるいは税務調査に不誠実に対応した場合はこれに該当します。しかし日頃確定申告をしないような方がうっかり数字を打ち間違えた場合はもちろんこれには該当しません。さらには、自分で意図的に過少な申告をしていた場合であっても、何も税務署をごまかす準備さえしていないような場合これにあたらないこともあります。
7 過少申告をしてしまった人がこの重加算税を逃れるためには、とにもかくにも、税務調査に対して誠実に対応をすることです。
 リーディングケースとされる最高裁平成6年11月22日判決は、所得金額の大部分を脱漏した確定申告書が数回にわたり提出している事案にて賦課要件を満たすと判断していますが、同最高裁判例は、「確定申告後の税務調査に際して、真実よりも少ない店舗数や過少の利息収入金額を記載した本件資料を税務署の担当職員に提出しているが、それによって昭和55年分の総所得金額を計算すると、最終修正申告に係る総所得金額の約17パーセントの額(差額で約14億円少ない額)しか算出されない結果となり、本件資料の内容は虚偽のものであるといわざるを得ない」との事実が認定されています。つまり、税務調査に際しても過少の店舗数等を記載した内容虚偽の資料を提出するなどの対応をして、真実の所得金額を隠ぺいする態度、行動をできる限り貫こうとしたことも重視されています。
 過少申告をしてしまった人は、やはり、反省をし、誠実に対応するのが最も大切となります。
8 但し、誠実に対応をすることと、全ていいなりになることとはまったく異なります。税務署の調査に対して、少し違うけどまあいいかと思い異論を述べなければ、自分に不利な質問応答記録書が作成され、記録として残されます。写しがもらえるわけではなく、また、その場で一度だけ早口で読み聞かされますが、立派な証拠となります。きちんと、事実と違うところは事実と違うと伝え、重加算税の要件に関連するところは積極的に、自分に有利と思える書類も提出する必要があります。このあたりは弁護士の比較的得意とする分野かと思います。
9 また、しっかりと反省をしていることも示しながらも、時系列をまとめて、仮装、隠ぺい行為とまでは評価できないことは書面にして主張をすべきです。類似の審査請求の裁決例を調べて、比較表を作成してもよいかもしれません。租税法律主義(憲法84条)の原理原則からスタートし、最高裁判例や調査官解説を整理し、具体的な納税者側に有利な事実を拾い出し書面化する作業は、訴訟における最終準備書面作成業務に類似しており、やはり弁護士の比較的得意とする分野かと思います。
10 このような業務はスケジュールがタイトであり、うまくいかないことも多くあり、顧客や税理士の先生方の業務内容を理解する必要もありますので、弁護士としても安請け合いはできない、覚悟を持って取り組む類型の業務ではあります。しかし、どの弁護士でも一応の対応は可能な業務でもあります(通知弁護士になること自体は、手続を踏むだけで可能です)。税理士の先生方で、争ってもよいのではないかと思える案件をお持ちのかたは、交流のある親しい弁護士に、一度一緒に争わないかと打診してみてはいかがでしょうか。