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ネガティブオプションへの対応

弁護士 森田祥玄

1 中小企業から受ける新規の相談例をアップいたします。
2 名古屋でも古くからある類型ですが、「勝手に送りつけられた雑誌の代金を請求された」との相談を受けることがあります。購入の申し込みをしていないのに一方的に商品を送りつけ、代金の請求をすることを、ネガティブオプションと呼びます。送りつけ商法といったほうが、聞いたことがあるかもしれません。
3 法律的には、売買契約は、お互いが売買契約を行うという意思の合致がなければ成立しません。商品を送りつけても、お互いの売買契約の意思が合致したわけではありませんので、売買契約は成立しません。また、勝手に送りつけてきたからといって、商品の返送義務は生じません。
4 もっと、理論的には、送りつけられた商品は販売業者の所有物ですので、民法上は、勝手に処分することにはリスクが残ります。また、民法526条2項は、契約は、「承諾の意思表示と認めるべき事実があった時」に成立するとされておりますので、この点からも勝手に使ったり、廃棄することもリスクがあります。
5 消費者ならば、特定商取引に関する法律59条1項により保護されます。この条文は長くて読みにくいのですが、商品の送付があつた日から14日が経過したら(放っておけば)、送りつけた側は商品の返還さえ請求できなくなり、消費者は廃棄することができるとされています(実際に廃棄をする前には、必ず弁護士に事前にご相談ください)。
  しかし中小企業や個人事業主には、このような条文が適用されないことがあります。同59条2項には、「前項(1項)の規定は、その商品の送付を受けた者のために商行為となる売買契約の申込みについては、適用しない」とされています。この「商品の送付を受けた者のために商行為となる」か否かについて、裁判で争える場面も多いだろうとは思います。「何も私のためになっていない商品だ」などの主張を行うことは考えられますが、裁判で争うことになること自体がコストがかかります。
6 よって、中小企業や個人事業主には、14日経過したからといって、勝手に廃棄することにはリスクが残ります。かといって、保管をし続けるのも大変です。商法510条本文は、「商人がその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において、その申込みとともに受け取った物品があるときは、その申込みを拒絶したときであっても、申込者の費用をもってその物品を保管しなければならない」と定めています。商法510条はまともな商売人同士の取引を想定した条文ではありますが、保管代の請求についても、解釈に争いが生じます。
7 また、商法509条1項は「商人が【平常取引をする者から】その営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない」と定め、2項にて、「商人が前項の通知を発することを怠ったときは、その商人は、同項の契約の申込みを承諾したものとみなす」と定められています。雑誌を送りつけてくる業者は「平常取引をする者」にあたらないため、同条文の適用はないという反論をしていくことになるのですが、やはり争うこと自体がコストがかかります。
8 やはり、対応方法としては、送りつけた業者へ承諾しないことをFAX等で通知し、送付されてきた商品を返送することが望ましいだろうと思います。
9 弁護士から送りつけた業者へ内容証明郵便を送付し対応することももちろん可能です。弁護士への依頼をお考えの方は、当事務所までお電話をお願いいたします。