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投資被害と回収業務

弁護士 森田祥玄

弁護士には詐欺被害に遭った、投資被害に遭ったとの相談が舞い込みます。

成年後見人業務や保佐人業務、遺言作成業務とセットとなる類型もあります。中小企業の代表者を狙う詐欺も珍しくなく、企業法務とも密接に関連します。

古くからあり、手を変え品を変え、詐欺というものは行われます。
自分は詐欺の被害に遭わないと思っている方もいらっしゃるでしょうが、社会経験がある方でも、詐欺被害に遭います。
金融リテラシーの高い職種の人でも、これで騙される人がいるのかと思えるような取引に飛びついてしまいます。
巨額の詐欺被害については、過去に投資信託や株式投資でまっとうな利益を得た経験のある人のほうが遭いやすいともいえます。
こつこつと続けた証券会社での投資信託を全て解約して、詐欺師に手渡してしまう人もいます。中小企業の社長が税金対策だと信じて大切なお金や、中には自社の株式を差し出してしまうこともあります。
このような方は、本人が詐欺の被害に遭ったことに気づいていなかったり、あるいは薄々気づいていても認めるのが嫌で第三者に相談できないままとなっている方もいます。

類型は実に様々ですが、いくつか古典的な例を挙げます。

【共通の手口】

1 詐欺被害の多くに共通しているのは、最初に配当等の名目で5万円や10万円などキャッシュバックを行い、利益が出ているように思わせる手法を取ることです。
 例えば500万円の詐欺ならば、最初の1年ほどは毎月10万円ほどの振込が継続します。そしてパタッと振込が止まり、「香港の○○さんと連絡が取れない」「議員の○○先生から少し待って欲しいとの連絡があった」「本部から少し待って欲しいというメールが来た」など、支払が止まる連絡が来ます。
 そのような連絡があったあとに、また数回振込があるかもしれませんが、その後は振込が止まります。

2 またやはり共通する手口として挙げられるのが、友人を紹介すれば紹介料が支払われる、という点です。
 その結果、友人や知人を紹介して、二次被害、三次被害を生み出します。
 自分が被害者であっても、加害者にもなり得ます。その場合は紹介者も訴訟の被告として賠償請求をされることになります。

【詐欺の実例1 迷惑メールのパターン】

皆さまも見たことがあるでしょうが、携帯電話に、「〇〇〇万円をさしあげたい」などの迷惑メールが届き、これに返事をしてしまうパターンがあります。
実際にこのメールに返信をした経験はほとんどの方はないでしょうが、このメールに返信をしますと、何回かやり取りが続いた後、「手数料」や「入会金」等の名目で、最初は少額の支払いを要求されます。
最初に払うと、徐々に求められる金額が増え、本人が詐欺であると認識するまで、支払いが続きます。
皆様はこのようなメールをみたときに、どうみても詐欺で、これに返事をする人がいるのかとの疑問を持つ方もいらっしゃるでしょうが、これに返事をする人がいるから詐欺師もメールを送るのです。
このような「どうみても詐欺」というメールは、「これに返信をする人は騙しやすい」というスクリーンニングの機能も果たしますので、詐欺師にとっても「明らかに詐欺」と思えるメールは効率がよいのです。
そして、一瞬でも本当かもしれないと信じてしまうと、自然とお金を振り込ませる流れに導かれます。
この迷惑メール関連の詐欺事案の相談は、私が弁護士になったころから十数年、一貫して存在し続けています。

【詐欺の実例2 加盟店に加入する例】

「加盟店になれば手数料が入る」と勧誘され、よくわからない加盟店に加入し、加盟料等を支払う詐欺も昔からあります。
私(弁護士)が契約書を読んでも結局何の加盟店なのか理解できない内容のことが多く、実態のないものです。
例えば「高速通信網を整備する。この代理店になる権利を50万円で売却する」などの説明があります。
そして、高速通信網の整備に東京都も愛知県も積極的に関与している、などと、愛知県知事や名古屋市長の写真付きで説明があります。
そして実際に50万円を出しますと、最初の半年ほどは数万円の振り込みがあります。
しかしその後、何らかの理由を付けて振込が止まります。

【詐欺の実例3 仮想通貨を購入する例】

時代の流れかと思いますが、仮想通貨に絡んだ詐欺も増えました。
例えば、ビットコインの次にくる仮想通貨がこれから売り出される、などと勧誘をされます。
そして新たに会員を獲得すると報酬として仮想通貨を支払う、などの内容で、実際に仮想通貨が増えていくメールが定期的に届きます。
そのようなメールを貰うと形式的には仮想通貨が増えているように錯覚をして、とても嬉しくなりますが、もちろんこれらを現金化することはできません。

【詐欺の実例4 貴金属(ゴールド等)の投資を謳う例】

昔から、貴金属(ゴールド等)への投資に絡む詐欺は存在します。
もちろん、適法な業者にとって迷惑な話で、貴金属を買うこと自体は適法です。
この手の詐欺に特徴的なのは、まっとうな投資話ではなく、はじめから違法行為を前提に勧誘をする点です。
例えば外国でゴールドを仕入れ、日本で売れば、○%の純利益が出る、などと、密輸入を前提とした勧誘がされることもあります。
警察に被害相談に行くと、「あなたも違法なことを前提にお金を出しましたよね」と言われてしまうこともあります。
実際にはお金を出す側は全体の流れも分からずに、ただ儲かるとだけ聞いて出資しますので、警察に丁寧に説明をすれば分かってはくれるのですが、警察がなかなか動いてくれない類型の詐欺です。

【詐欺の実例5 過去の詐欺被害を回復すると謳う例】
 
例えば過去に、将来必ず値上がりする未公開株がある、と言われ1000万円を出した事案があったとします。
騙されたことに気付いて、警察や弁護士に相談をしましたが、結局回収できませんでした。
ところが5年ほど経った際に、「あのときの未公開株だが、高値で購入してくれる人が見つかった」などの電話や手紙が届きます。
そして、「まとまった株式を持つ必要があるので、300万円追加購入して欲しい。そうすれば1300万円で買い取る」などと持ちかけられます。
このような、過去に詐欺被害にあった方が、その回復を謳い再度詐欺に遭うパターンは非常に多く見られます。
警察や弁護士、消費生活センターの皆さんが何度注意しても、再度お金を払ってしまう人もいます。

【回収できるのか】
 
上記の例はいずれも名古屋で実際に起き、そして私が実際に担当した詐欺被害事件を簡略化しています。
このような詐欺被害の相談を受けたときは、「回収できるのか」という問題は弁護士を悩ませます。
答えとしては、「回収できないことも多いが、回収できたこともある」という回答になります。

内容証明郵便を送った程度で返金をしてくる業者はありません。
相手が会社を名乗っていても、登記もされていない架空の会社であることも多く、訴訟を提起することも難しい場合もあります。
個人、会社、取締役、従業員等、誰を被告とできるのかも難しい判断が必要となります。
また、つらいところではありますが、友人である紹介者を被告として訴訟を提起することも珍しくありません。
直接の面談、仮差押、訴訟提起、刑事告訴等を複合的に選択しながら、少しでも回収を図っていくことになります。
また、詐欺被害の回収は時間との勝負という側面もあります。
例えば出会い系サイトにお金を費やしたが、実際に会えたことはない、サクラじゃないか、という相談を受けたとします。
この場合、出会い系サイトの運営者は、もちろんサクラではない、と反論をしますが、しかし現在も多数のユーザーがいるような場合は、紛争を避け、サイト側が早期解決を目指すこともあります。出会い系サイト(サクラサイト)、副業支援詐欺、情報商材詐欺などは、早期の弁護士への相談により返金される可能性があります。

詐欺被害は、弁護士にとっても、なかなか見通しを伝えにくい類型で、実際に回収できないことも多々あるのですが、それでも早めの相談が大切です。
ご不安なことがありましたらすぐに弁護士にご相談ください。