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交通事故をよく扱う弁護士におすすめの書籍

弁護士 森田祥玄

 私は以前、損害保険会社の案件を扱う名古屋では大きいほうに分類される法律事務所に所属しておりました。そして若い弁護士のための研修も企画し、また、保険会社向け勉強会の講師も担当しておりました。

 損害保険会社から依頼を受ける交通事故も他の案件と同様に、入所して間もない弁護士には初めて知ることが多く、戸惑うものです。そこで、私なりに、若い弁護士にいつもカバンに入れて頂き一読して頂きたい文献を、おすすめ順にまとめます。
 どの分野でも同じですが、薄めで読みやすい本で浅く広く勉強をして全体像を把握したうえで、徐々に深めていく方法がよいと思います。

1 損保会社のパンフレット
 まずもって何度も読み返して頂きたいのは、入所した事務所と取引のある保険会社のパンフレットです。一般ユーザー向けのものです。個人向け、事業者向けなど複数あります。また、自賠責保険請求用のパンフレットありますので、それも精読が必要です。
 人身傷害保険で保険料率があがると言ってしまうだとか、対物超過特約使用の交渉をしながら半年経過させてしまうだとか、ありがちなミスを防ぐには、まずは自社のパンフレット記載事項の理解が必須です。
 とはいっても、一般ユーザー向けに分かりやすく記載されていますので、ハードルは高くはない資料です。まずはここからスタートです。
 会話の基礎となる知識ですので、できる限りパンフレットが改訂されるたびに通読した方が良いです。

2 損害保険会社の約款
 パンフレット記載事項を理解しましたら、入所した事務所と取引のある保険会社の約款をざっと斜め読みしましょう。どこに何が書いてあるか分かる程度で構いません。保険会社も約款の全てを理解していることまでは期待していませんが、電話をしながらすぐに取り出せる位置に約款が置かれていることは期待されています。
 例えば契約者が破産をしたのですがまだ免責は受けていません、直接請求権を行使されているのですが、お支払いしてよいでしょうか、という質問をされた際に、その内容を即答できる必要まではありませんが、約款を開いて一緒に調べ、考えながら答えることができるレベルには到達する必要があります。

3 園部厚「交通事故物的損害の認定の実際―理論と裁判例」(青林書院)
 交通事故の紛争を扱う際になんとなく気になる論点が書かれています。車検証の所有者がリース会社となっている場合の損害賠償請求権者は誰か、だとか、弁護士費用特約に加入している場合に弁護士費用相当額損害金を請求できるか、など、かゆいところに手が届く知識が記載されています。

4 園部厚「簡裁交通損害賠償訴訟実務マニュアル」(青林書院)
 交通事故の知識がコンパクトにまとまっています。上記「4」の本の同一著者、同一出版社です。上記「4」の本と重複するところも多いのですが、それでも分かりやすく書かれており、薄めの本なので、一読をおすすめします。

5 藤井勲「新 示談交渉の技術―交通事故の想定問答110番」(企業開発センター)
 加害者側の想定問答集が記載されております。保険会社の担当者向けの本ですが、示談交渉の入門書として一読しておいた方がよい本です。

6 日弁連交通事故相談センター本部「交通事故損害額算定基準」
 青い本、青本と呼ばれる本で、多くの弁護士が読んでおくべき文献として1位にあげるのではないでしょうか。名古屋地裁交通部は赤い本を規準に算出しますが、青い本のほうが赤い本と比べて説明部分が充実していますので、通読するなら赤い本より青い本のほうがよいだろうと私は思います。多数の裁判を経験したあとに読むとまた新しい発見のある本で、改訂される度に通読をした方がよいです。
 ただなかなか開いてみると情報量が多く、通読しようとして途中で挫折し、治療費は得意だけど損益相殺は苦手という弁護士も多いのではないでしょうか。全5回ほどで友人とゼミを組み、発表担当者を決めて読み進めていけば、どうにか通読にまで至るのではないかと思います。

7 判例タイムズ社 「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版] 別冊判例タイムズ38号」
 青い本、赤い本と並び弁護士が読んでおく本として上位に挙げられる本です。しかし通読する本ではないように思います。前書きと各用語の説明部分は熟読し、その他の部分は斜め読みし、事案を経験しながら理解していけばよいだろうと思います。

8 東京弁護士会「こんなところでつまずかない!交通事故事件21のメソッド」
 先輩弁護士との雑談のなかで知るような豆知識が記載されています。保険会社は時効援用するのか、などがあり、さらりと読めますので一読をおすすめします。

9 高中正彦他「交通賠償のチェックポイント」
 交通事故の知識がコンパクトにまとまってあります。赤い本を濃縮し、また、あまり一般的な本には載っていない制度の枠組み等の記載もある良著だと思います。内容も正確で、筆者の専門性がかなり高い印象を受けます。

10 森冨義明他「裁判実務シリーズ9 交通関係訴訟の実務」
 通読すべき本かというとそこまでではないかもしれませんが、名古屋地裁交通部の裁判官とは、この本の記載を前提に会話を行うこともあり、私は書証として写しを提出することもよくある本です。どの論点が記載されているのか把握はしておいた方がよいです。

交通事故の本は多数存在しておりますが、まずは一般的な任意保険のルール、自賠責保険のルールを浅く広く理解することが大切です。参考にしてください。

相続税対策の一例

遺言作成と同時に、相続税対策はどうすればよいか、と相談を受けることがあります。
弁護士ではなく税理士に聞いてほしい、と伝えることを原則としていますが、それでも簡易な相続税対策なら、弁護士でもアドバイスは可能です。

【事例】
夫に先立たれた女性で、子どもが3人、孫が3人、総資産約1億円です。とくに病気が見つかったわけではないのですが、もうそう余命も長くないと思い弁護士に相談に訪れました。

1 相続税の基礎控除額は、「3000万円+600万円×相続人の数」ですので、事例の場合では4800万円となります。つまり、4800万円以上の遺産には、相続税がかかることになります。相続税対策を行った方がよいだろうとは思います。

2 まず最初に思いつくのが、毎年110万円の贈与を行うことです。贈与税は、毎年110万円までなら非課税です。定期贈与(毎年定期的に贈与をする契約)とならないよう注意が必要ですが、相続税対策として最も一般的に行われている方法です。難しい話ではなく、預貯金口座から、110万円ずつ各子どもの口座に振り込み、1回毎に贈与契約書を作っておけばよいだけです。
しかしここで注意をしなければならないのは、相続開始前3年以内に生前贈与により財産を取得した場合、相続税の課税価格に加算する必要があるとされている点です(生前贈与加算)。余命が長くないと言われてあわてて子どもに贈与をしても、効果が薄いかもしれません。
なお、孫3名に対する生前贈与分は相続税の課税価格に加算されるわけではありませんので、依然として効果の高い方法であることには変わりません。子どもだけではなく、孫や、子どもの配偶者など、相続人以外の人物への贈与も積極的に検討して下さい。

3 次に、生命保険を利用した相続税対策も効果的です。生命保険も相続税の課税対象になりますが、「500万円×相続人の数」までは非課税となります。冒頭の事例では、1500万円までは非課税となります。この非課税枠は是非積極的に利用していただきたいところです。
生命保険は、「新入社員のころや新婚のころに入り、長年払い続けるもの」とのイメージを持たれている方もいらっしゃるでしょうが、高齢になったり、病気になっても入ることができる保険があります。それこそ、ガンであっても入ることができる保険もあります。
具体的には、最近は損をするなどのネット記事もありますので、しっかりと内容を理解したうえで行う必要はありますが、一時払い終身保険を利用することが考えられます。近時流行の外貨建て保険の場合、為替リスクもありますので元本を完全に保証する商品ではなく、代理店手数料や運用リスクもありますが、節約できる相続税を考えますと、リスクを取ってでも申し込みをした方がよい場合もあります。
相談事例のように、夫に先立たれた女性の場合、夫はサラリーマン時代に生命保険に加入していても、妻は県民共済にしか入っていなかった、というようなパターンも多くあります。
仮に何も対策をしなかった場合の相談事例の相続税が630万円として、1000万円の生命保険に加入したら、相続税が480万円ほどまで減らせる可能性があります。
入院中であったり、余命宣告を受けていると活用できない場合もありますので、そのあたりはありのまま、弁護士やファイナンシャルプランナー、保険代理店にお伝えください。

4 ほかには、ガンが見つかった、というような事情で、一気にお金を動かした方がよい場合は、例えば「教育資金の一括贈与」という制度を利用することが考えられます。相談事例では30歳未満の孫がいるのなら、検討の価値があります。日頃利用している銀行に相談をすれば、パンフレットを渡して頂き、積極的に手続を教えて貰えます。具体的には、当該銀行に新しい口座を作成し、金融機関と信託契約(教育資金管理契約)を結びます。そして孫と贈与契約を締結し、その口座にお金を振り込めば完了です。受贈者(孫)1人につき1500万円までの贈与が非課税となりますが、教育資金にしか用いることができない、30歳までに使い切れなければその時点で課税される、などのデメリットもあります。毎年の110万円の贈与などを行う時間的余裕がない場合、あるいは大学の入学資金等を出してあげるまでは余裕もない場合には、検討の価値があります。

5 典型的には、「養子を取る」という方法もあります。相続税の非課税枠は、「3000万円+600万円×相続人の数」ですので、養子を1名取れば、相続人の数を増やすことができます。無制限に増やせるわけではなく、冒頭の事例では相続税対策としては1人までしか算入はできません。養子が1人増えても非課税枠は600万円までしか増えませんので、生命保険や教育資金贈与等に比べれば効果は大きいものではありません。何より、1人相続人(兄弟)が増えるわけですから、微妙な子ども達の仲に影響を与え、将来トラブルとなる可能性があります。積極的にはおすすめはしませんが、古くから行われる古典的な相続税対策ですので、一考の価値はあるかと思います。

6 あとは、「現金・預貯金を、不動産に変える」ということも考えられます。一般的には預貯金よりも不動産の方が相続税申告時は評価が低く算定されますので、有利となります。

7 上記の方法のうち、孫3人に3年間合計990万円を贈与し、1500万円の生命保険に加入し、孫3人に合計3000万円の教育資金贈与を行い、3年後に亡くなった場合、例えば対策前は600万円ほどであった相続税が、計算上は0円となることもあります。養子縁組までしなくても、相続税を減らすこともできる可能性があります。

8 但し、ここまで記事を書いておきながらではありますが、我々弁護士のところに来る紛争案件は、生前に相続税対策をしたことが原因で揉めはじめた案件も多くあります。「特定の子どもにだけ、生命保険を1500万円も残した」「知らない間に特定の孫にだけ1500万円もの教育資金が贈与が行われていた」「勝手に甥っ子と母が養子縁組していて、母が亡くなってから知った」など、子ども達のためにと思って行った行為が、紛争を呼び起こすこともよくあります。弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーに相談をして、関係者が納得のうえで進めるべきでしょう。

9 特に、認知症の症状があらわれてから、子どもが主導して相続税対策が行われるような事案は、10年かかる紛争を呼び起こすこともあります。何が幸せかは、考え方も色々です。何も対策をせずに相続税を払っておけばもめることもなかったのに、兄弟の仲がここまで悪くはならなかったのに、という事案もたくさんあります。
 まずは専門家にご相談ください。

遺留分侵害額請求権の計算方法

1 平成30年の民法改正により、遺留分侵害額請求権の理解が容易になりました。今までは遺留分侵害分を「取り戻す」(遺産を返して貰う)制度でしたが、これからは、遺留分侵害分の「お金を支払ってもらう」という制度になりました。ですので、今までのように土地の持ち分や株式の持ち分が移るわけではなく、全てお金の問題に帰結します。

2 遺留分侵害額の計算方法自体には、従前と同じ考え方が採用されています。遺留分侵害額請求のトラブルは、実際に一度訴訟を担当してみないと分からないことが多く、苦手意識を持つ弁護士も多いのではないでしょうか。

3 計算は、決して複雑なものではなく、普通の足し算、引き算、かけ算、割り算で算出できます。条文と判例に従い1つ1つあてはめていけば数字はでます。
まず、「相続開始時点での遺産」を整理します。
そして、その金額に、民法1044条で加算可能な贈与された財産を足します。
さらに被相続人の債務を差し引けば、まずは遺留分減殺請求の対象となる総財産が算出されます。このことが民法1043条に記載してあります。

この金額に、考え方としてはまずは総体的遺留分の割合をかけます。その多くは2分の1だろうと思います。そして、さらに法定相続分の割合をかければ、遺留分侵害額の基礎となる財産が出ます。

こうして算出された数字に、1046条2項1号に規定される特別受益額、民法1046条2項2号に規定される相続によって得た財産を差し引きます。もしも請求権者が負担する相続債務があるのなら、民法1046条2項3号の定めに従いその相続債務の額も加算します。

4 訴訟になった際には、名古屋地方裁判所では、「このエクセルシートに入力して欲しい」というシートを渡されることも多いかと思います。但し、相続人の数や遺言の内容によって少しずつ計算方法は変わりますので、結局は、条文と判例を見ながら打ち込むことになり、弁護士の出番があります。

5 また、不動産価格の算定や、株式価格の算定、生前の贈与をどこまで加算できるのかなど、専門家でなければ判断しがたい部分もあります。非上場株式の株式価格の算定では、相続税申告の際の株式の価格と時価が大きく異なることがあります。

6 平成30年の改正により金銭債権となりましたので、考え方が容易になりました。過去に訴訟を提起し、補正が多数あり苦手意識を持ってしまった弁護士も、取り組みやすくなりました。先入観を捨てて(再)チャレンジしてよい分野だろうと思います。

7 但し、裁判例や示談事例の蓄積は引きつづき待ちたい分野でもあります。従前は遺留分に相当する不動産を渡し解決をする、ということもありました。しかし金銭債権であることが条文上明記されておりますので、「遺留分相当額の不動産を渡す」という解決をしますと、遺留分侵害額を不動産で代物弁済をした形式になります。その結果、渡した側に想定外の譲渡所得税(遺留分相当額で譲渡したという結論になる。通常の売買と同じように、譲渡所得税の計算が必要となる)がかかることになります。

令和元年6月28日付で「所得税基本通達33ー1の6」も以下のように改正されています。

金銭以外の解決をする際の柔軟性はむしろ失われたとも評価できますので、注意をしながら進めてください。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/kaisei/190628/pdf/05.pdf

離婚相談時にご持参頂けると助かる資料

 弁護士に離婚の相談をする際は、もちろん手ぶらで来ていただいても構わないのですが、事前に相談したい事柄をメモ書き程度でいいのでまとめておいて頂ければ、相談がスムーズです。具体的にまとめて頂けると助かる事柄を記載いたします。

1 基本的な情報
・相談者の氏名、住所、生年月日、電話番号、メールアドレス、勤務先、年収
・相手方の氏名、住所、生年月日、電話番号、メールアドレス、勤務先、年収
・子どもの氏名、住所、生年月日、現在通学している学校
・不貞相手などの第三者がいる場合、第三者の氏名、住所、電話番号、勤務先
・相手方や第三者に弁護士が就いている場合、弁護士の名前、連絡先
・訴訟や調停になっている場合は裁判所から届いた資料一式

2 財産関係の情報
・土地、建物の持ち分、大まかな固定資産税評価、大まかな残ローン額
・土地、建物のローンの名義人(夫のみ、妻のみ、夫と妻の連帯債務、夫が主債務者で妻が連帯保証人など)
・双方の預貯金の銀行名、支店名、大まかな残高
・双方の生命保険、医療保険、学資保険等、保険の有無、保険会社名、保険のタイプ
・双方の車両の有無、車種、購入年月日

3 希望する請求
・慰謝料の請求を希望するか、するとしてどの程度を求めたいか
・離婚するまでの生活費(婚姻費用)を請求するか、するとしてどの程度を求めたいか
・養育費の請求を希望するか、するとしてどの程度を求めたいか
・親権について争いがあるか

4 今まで歩んできた歴史
・双方の両親の名前、住所
・夫婦の学歴(高校、大学、過去の勤務先)
・夫婦の出会い、結婚に至るまでの経緯
・婚姻年月日、別居をしているのなら別居の年月日

5 離婚をしたい理由
・互いの性格
・離婚協議をするに至った経緯

6 離婚へ進むためのステップ
・離婚後の生活の予定、特に別居後にどこで、どのように生活をするのか。
・携帯電話の支払名義、クレジットカードの支払名義、水道光熱費の支払名義、その他生活をしていくうえで必要となる支払いをどちらが負担しているか、その変更の要否

以上のような事柄を、ごく簡単で結構ですのでワープロ打ちでざっとまとめていただけますと、相談にスムーズに入れるだろうと思います。もちろん事前準備ができずにそのまま法律相談に来所頂くかたも多数おられますので、必須というわけではありません。これから弁護士に離婚の相談をするというかたは参考にしてください。

(参考:初回の法律相談にはなくてもよいのですが、いずれは収集したい資料)
・戸籍謄本、住民票
・本人、相手方の給与明細書、源泉徴収粟
・本人、相手方の確定申告書、所得証明書・課税証明書
・本人、相手方の履用契約書(退職金があるかないかが分かる書類)
・年金を受給しているのなら年金の葉書
・年金情報情報通知書(原本)
・双方の預貯金通帳(写し、婚姻時から別居時までの記載のあるもの。子供名義のものも含む)。
・保険証書
・保険の解約返戻金証明書
・証券会社との取引明細
・借金がある場合の残高が分かる賢料
・不動産登記簿謄本
・固定資産評価証明書(課税明細書でも可)
・住宅購入の際の契約書、頭金の拠出割合が分かる資料
・住宅ローンの今後の支払い予定及び残高が分かる資料
・自動車検査証
・DVがあるのなら診断書や写真
・不貞があるのなら証拠と思われる資料

ガーゼ取り忘れ事故

1 医療事故の典型例の1つに、ガーゼ取り忘れ事故があります。例えば虫垂炎の手術(昔は盲腸と呼ばれていた箇所の手術)を行い、時が流れ、20年も30年も経ってから、急にお腹が痛くなることがあります。そしてお腹を開けてみるとガーゼと思われる物体が発見されることがあります。

2 ガーゼ取り忘れ事故の第一の課題は、昔手術をした病院に原因があると立証できるか、という点です。体にガーゼが残っていることは、ガーゼを取り出した病院が病理検査をすれば明らかになります。問題は、ガーゼを残した病院を特定できるか、という点です。

3 医師法24条は、第1項で「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」と定め、第2項でその診療録は「5年間これを保存しなければならない」と定めます。診療録(カルテ)以外の日誌やX線写真などは、医療法21条1項14号により、2年間の保存義務があるものと定められています。

 ただし、保存期間5年というルールは、あくまで法律上の規程であり、多くの病院では実際はそれよりも長い間保存します。将来的なトラブルに備え、場所がある限りは保管をしている病院もあります。また、電子カルテを導入している病院も増えております。電子カルテの場合は紙のカルテのように物理的な保管箇所が必要となるわけでもなく、保管されやすくなります。昔すぎる、と諦める必要はありません。病院の診療録があれば、そこで何が行われたのかが明らかになりやすく、開示を請求すべきでしょう。

 ガーゼが取り残された場所と、昔手術をした箇所を照らし合わせれば、合理的にみて、昔手術をした際にガーゼが取り残されたと考えてよい場合も多いだろうと思います。


4 そのほかの証拠収集方法として、公的医療保険に弁護士会照会をかけて、過去の病院の通院歴等を明確にしておくことも考えられます。会社員とその家族なら健康保険に、それ以外は国民健康保険に加入しています。なお、75歳以上の人はそれらから外れ後期高齢者医療制度に加入しています。健康保険は、いわゆる協会けんぽと、組合健保に分かれます。これらの公的医療保険の機関に弁護士会照会を行い、入通院歴を分かる範囲で確定させることができます。


5 もちろん、手元や実家に残された病院の領収書、診察券、手術同意書等の控えなども、1つ1つが証拠となります。手元の証拠が乏しい場合、子どもの頃の写真を自宅から取り出し水着姿の写真で手術痕がいつからあるのかを立証するなど、地道な努力も必要です。親兄弟、友人の陳述書なども、無駄ではありません。


6 相手方となる昔手術をした病院に証拠保全を行うことも考えられます。証拠保全とは、訴訟提起を待っていてはその証拠を使えなくなる(つまり、改ざんのおそれがある)ような場合に、訴訟提起を待たずに裁判所が証拠調べを行う手続です。医療事故訴訟では、患者側は治療経過に関する客観的な資料を持ち合わせておりません。病院側の過失を問えるか否かを判断するためにも、証拠保全によりカルテ、医療記録の入手・検討を行う必要があります。

 証拠保全は相手方に告知することなく、裁判所からの書類が届いた当日に、裁判官、裁判所書記官、弁護士、弁護士が連れてくるカメラマンなどが来院し、診療記録の開示を求めます。
 証拠保全手続は弁護士にとってもそれなりに手間暇のかかる手続です。大きな病院なら慣れているので、淡々と法務担当者が窓口となり事務的に進めてくれます。しかし病院によっては慣れておらず、その場での交渉、やり取りも必要となります。同行する裁判官は若手のことも多く、大変そうです(その分、裁判所書記官はベテランのことが多い印象です)。
通常、示談交渉や訴訟提起とは別で、証拠保全のためにも弁護士費用がかかります。行う類型や病院の場所、裁判所の場所などにもよりますが、最も安くても30万円と消費税程度は見ておいた方がよいでしょう。
ガーゼの取り忘れ事故の場合、何も後遺障害が残らないような事案なら、得られる賠償金がそこまで高額にはなりません。病院の責任を認めさせ、賠償金を獲得できたとしても、その大半が弁護士費用で消えてしまうことにもなりかねません。
 確かに「カルテは廃棄したので、ガーゼの取り忘れがあったかどうかも、もう分かりません」と言われると、立証の難易度はあがります。証拠保全手続を行う必要性は否定できません。しかし、手紙を一通普通郵便で送れば、病院側が責任を認め謝罪し、あとは金額の交渉になることもあります。この場合は、証拠保全手続を取る必要はなかった、との結論になります。
 医療事故紛争のなかには、病院の過失自体は明らかなことも多くあり、ガーゼの取り忘れもその典型です。近時は、病院側も自らの過失を早期に認めることが増えている印象はあります。このあたりの判断は難しく、人間の行うことですので、絶対はありません。

 証拠保全手続を取るかどうかは慎重に判断し、そのメリットとデメリット、最終的に得られるであろう賠償金と要する弁護士費用のバランスを考え、選択した方がよいだろうと思います。

7 こうやって、どの手術でガーゼが残されたのか明らかになれば、当該病院に対し損害賠償請求を行うことになります。

8 ガーゼが取り残されているのならば、債務不履行があったこと、あるいは不法行為上の義務に違反したことについては、特別な主張、立証の議論は不要だろうと思われます。しかしいくつか法的な争点は残されます。


9 まずは、時効の問題があります。
 時効制度は法改正があり、法改正後は、債務不履行に基づく損害賠償請求については、「権利を行使することができることを知った時から5年間」か、「権利を行使することができる時から10年間」のどちらか短い方となります。ただし、生命・身体に損害が発生している場合は、「権利を行使することができる時から20年間」となります。よって、ガーゼの取り忘れの場合は、最初の手術から20年以内に発見された場合は、すぐに弁護士に相談をすれば時効にならずに請求できます。
 不法行為で構成した場合は、損害及び加害者を知ってから3年、あるいは不法行為のときから20年で時効になるものとされます。しかし不法行為の場合も生命・身体に損害が発生している場合、特例があります。生命・身体に損害が発生している場合は、債務不履行と同様に、損害及び加害者を知ってから5年、あるいは不法行為のときから20年となります。
このような消滅時効の制度については、法律の改正があり、旧法と新法の適用関係も整理が必要です。「法律が施行される日より前に生じた債権については、現行の民法の適用となる」とされております。
よって、だいぶ前のガーゼ取り忘れ事故の場合、債権そのものは取り忘れたときには発生しているでしょうから、改正前の民法が適用されることになるだろうと思われます。
では、30年前の手術でガーゼ取り忘れ事故が起きたような場合、時効で請求できないのでしょうか。数字だけをみると、条文上、旧法・新法ともに請求できないようにも見えます。消滅時効の起算点の問題です。
これについては、東京地裁平成24年(2012年)5月9日判決(判例時報2158号80頁)が参考になります。約25年後に発覚した残置事故について、債務不履行の消滅時効の適用を否定し、請求を認容しました。
不法行為の場合は除斥期間の問題がありますが、医療事故の場合は債務不履行構成が可能となりますので、「権利を行使することができることを知った時」を、ガーゼ取り忘れを知ったときと考えれば、時効の問題はクリアできます。
ただし「権利を行使することができることを知った時」についてはやはり解釈の問題がどうしても残りますし、病院側の初回の回答では時効である以上払う義務がない、などと記載されることもあります。
  時効が争点となることはご理解頂いた方がよいだろうと思います。


10 こうやって立証と法律的な問題をクリアしたなら、最後に、「賠償金はいくらになるのか」という話となります。
 ガーゼを取り出した手術代や病院への交通費、付添看護費、休業した際の休業損害、後遺障害が残った際は逸失利益や後遺障害慰謝料が発生する点は、交通事故の場合と同様に考えればよいだろうと思います。

 問題は慰謝料です。ガーゼ取り忘れについては相場が形成されているというほどの裁判例があるわけではなく、個別判断とならざるを得ません。

 「実害はないけど、お腹に長い間残っていたかと思うと不快だった」という点をどのように評価するかですが、実害はなくとも体に残置されていたことをもって一定の慰謝料を認めた裁判例もあります。また、「若い頃からお腹を壊しがちだった。たぶんこれが原因だと思う。」というような、法律的には因果関係の立証までは難しいような事情をどこまで考慮するかの問題もありますが、この点は明示的には考慮しにくい事情だろうと思われます。

 患者側は高額な慰謝料が認定された裁判例の事案に近いと主張し、病院側は低額な慰謝料が認定された裁判例の事案に近いと主張し、落としどころを模索していくことにならざるを得ません。

 不幸な事故に巻き込まれた方、諦めずに、一度お近くの弁護士にご相談ください。

駐車場の管理責任

弁護士 森田祥玄

1 コインパーキングの車止めが壊れており車両に傷がついた、駐車場のポールや看板の位置が悪く接触した、というようなトラブルの場合、誰に、どのような損害賠償請求を求めることができるのでしょうか。
2 交通事故の場合、通常、民法709条に基づき損害賠償を求めることが多いかと思います。
しかし、ポールや看板の位置が悪いことに、駐車場管理者の故意・過失を認定することはできるか、難しいところがあります。民法709条の故意・過失の立証責任は被害者側(請求する側)が負いますので、民法709条ではハードルがあがります。
3 そのようなときは、民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)を用いて請求ができるか、検討をします。民法717条本文は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」と定め、ただし書きには「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」と定めます。
 駐車場の設備、例えばポールや看板、車止めなどは「土地の工作物」にあたります。よって、その設置又は保存に「瑕疵」があることまで立証できれば、被害者は、工作物の占有者(土地の所有者や店舗を運営する法人など)に対し損害賠償請求を行うことができます。

 瑕疵があったか否かは、個別具体的な事情によります。通常と異なる態様であったからといって直ちに瑕疵があるわけではありません。例えばコインパーキングのフラップ板があがったままの状態であったため車両が損傷したという事案について、東京地裁平成26年11月7日判決(判例時報2252号89頁)は、進路の安全確認は運転手の基本的注意義務であり、通常の運転方法ならフラップ板は認識可能であったとして、瑕疵がなかったものとしています。但しこの事案は、フラップ板があがったことに駐車場側に責任がなさそうにみえること、利用者は入庫前にフラップ板が下がっていることを確認しなければならないなどの規定があったこと、無人のコインパーキングであり管理方法にも限界があることなども考慮されているものと思われ、一律な基準を示すものではありません。
「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」ことについては、占有者(土地の所有者や店舗を運営する法人など)が立証責任を負います。裁判所は簡単には占有者の責任を否定する判断は出しませんが、例えば台風で看板が落ちていて、その看板に車が接触した事例、などはその判断に裁判所も迷うことがあるかもしれません。
いずれにしろ立証責任は民法709条よりも民法717条のほうが被害者側に有利ですので、駐車場の設置物とのトラブルは、民法709条ではなく、民法717条に基づく請求を検討されることをおすすめします。
4 但し、民法717条であっても過失相殺(民法722条2項)の適用はあります。具体的な事情にもよりますが、駐車場の設備に気付かずに接触をした場合は、何らかの過失が認定されることも多いかと思います。損害の全てを請求できない可能性があることは留意が必要です。
5 また、目撃者がおらず、対立当事者もいないことから、被害者の言い分しか証拠がないような事案もあります。一度帰宅して、修理業者にみてもらい、その修理費に驚いて弁護士に相談をされても、実際にその駐車場で傷がついたのか、立証できないことがあります。
駐車場での単独事故であっても、必ずその場で警察に電話をして、交通事故の報告はしてください。そうすれば裁判でよく利用される「交通事故証明書」を取得することができます。また、簡単なメモ程度ではありますが、警察が事故後に作成する物件事故報告書を弁護士会照会という手続を用いることで取得できることがあります。また、可能な限りその場で駐車場管理者にも連絡を取り、事故があったことを報告しておくべきです。
6 あわせて、事故現場の写真も撮影しておく必要があります。看板が落下していた、などのパターンでは、翌日には片付けられている可能性もあります。事故現場は全体像、車両の損傷箇所、瑕疵が存する箇所等、携帯電話でもかまいませんので、多めに写真を撮った方がよいでしょう。
7 なお、駐車場での単独事故であっても、ご自身が加入されている弁護士費用特約を用いることが可能な場合があります。弁護士費用特約の使用が可能か否か、ご自身の保険会社にご確認ください。

尋問時の服装

弁護士 森田祥玄

裁判所で尋問を行う際、どのような服装がよいのでしょうか。

 やはり裁判官にありのままの真実を知って頂くべきでしょうから、弁護士が服装を指導をしすぎるのもよくない、との思いはあります。普段どおりが一番、という考えもあるだろうと思います。

 しかし私は、通常は、フォーマルな格好で来て下さい、とお願いすることにしています。長い紛争の記録に真摯に向き合う裁判官に対する一定の敬意を持つべきだろうという思いもあり、スーツである必要まではありませんが、一般的に違和感を覚えない格好をして頂いた方がよいだろうと思います。

 事案によって服装をどうするかは様々です。被害者のいるような案件の場合、あまりに派手な格好をして、被害者がどのように受け取るかを考える必要があります。また、金銭の支払を請求されている案件でブランド物を多数身につけていたら、尋問後に裁判官が示す和解案に微妙な心理的影響を与えるのかもしれません。どちらが嘘をついているのか分からないまま尋問になるような案件では、やはり身なりを整え、真摯に裁判官に真実を訴えるべきでしょう。

 裁判官が見た目で結論を変えるのか、というと、形式的にはそのようなことはないという回答になります。しかし裁判官も人間です。印象も軽視してはいけませんし、自分からあえて不利な行動を取る必要はありません。気になるようなら、担当されている弁護士にも相談をして下さい。