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遺留分侵害額請求権の計算方法
1 平成30年の民法改正により、遺留分侵害額請求権の理解が容易になりました。今までは遺留分侵害分を「取り戻す」(遺産を返して貰う)制度でしたが、これからは、遺留分侵害分の「お金を支払ってもらう」という制度になりました。ですので、今までのように土地の持ち分や株式の持ち分が移るわけではなく、全てお金の問題に帰結します。
2 遺留分侵害額の計算方法自体には、従前と同じ考え方が採用されています。遺留分侵害額請求のトラブルは、実際に一度訴訟を担当してみないと分からないことが多く、苦手意識を持つ弁護士も多いのではないでしょうか。
3 計算は、決して複雑なものではなく、普通の足し算、引き算、かけ算、割り算で算出できます。条文と判例に従い1つ1つあてはめていけば数字はでます。
まず、「相続開始時点での遺産」を整理します。
そして、その金額に、民法1044条で加算可能な贈与された財産を足します。
さらに被相続人の債務を差し引けば、まずは遺留分減殺請求の対象となる総財産が算出されます。このことが民法1043条に記載してあります。
この金額に、考え方としてはまずは総体的遺留分の割合をかけます。その多くは2分の1だろうと思います。そして、さらに法定相続分の割合をかければ、遺留分侵害額の基礎となる財産が出ます。
こうして算出された数字に、1046条2項1号に規定される特別受益額、民法1046条2項2号に規定される相続によって得た財産を差し引きます。もしも請求権者が負担する相続債務があるのなら、民法1046条2項3号の定めに従いその相続債務の額も加算します。
4 訴訟になった際には、名古屋地方裁判所では、「このエクセルシートに入力して欲しい」というシートを渡されることも多いかと思います。但し、相続人の数や遺言の内容によって少しずつ計算方法は変わりますので、結局は、条文と判例を見ながら打ち込むことになり、弁護士の出番があります。
5 また、不動産価格の算定や、株式価格の算定、生前の贈与をどこまで加算できるのかなど、専門家でなければ判断しがたい部分もあります。非上場株式の株式価格の算定では、相続税申告の際の株式の価格と時価が大きく異なることがあります。
6 平成30年の改正により金銭債権となりましたので、考え方が容易になりました。過去に訴訟を提起し、補正が多数あり苦手意識を持ってしまった弁護士も、取り組みやすくなりました。先入観を捨てて(再)チャレンジしてよい分野だろうと思います。
7 但し、裁判例や示談事例の蓄積は引きつづき待ちたい分野でもあります。従前は遺留分に相当する不動産を渡し解決をする、ということもありました。しかし金銭債権であることが条文上明記されておりますので、「遺留分相当額の不動産を渡す」という解決をしますと、遺留分侵害額を不動産で代物弁済をした形式になります。その結果、渡した側に想定外の譲渡所得税(遺留分相当額で譲渡したという結論になる。通常の売買と同じように、譲渡所得税の計算が必要となる)がかかることになります。
令和元年6月28日付で「所得税基本通達33ー1の6」も以下のように改正されています。
金銭以外の解決をする際の柔軟性はむしろ失われたとも評価できますので、注意をしながら進めてください。