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相続税対策の一例

遺言作成と同時に、相続税対策はどうすればよいか、と相談を受けることがあります。
弁護士ではなく税理士に聞いてほしい、と伝えることを原則としていますが、それでも簡易な相続税対策なら、弁護士でもアドバイスは可能です。

【事例】
夫に先立たれた女性で、子どもが3人、孫が3人、総資産約1億円です。とくに病気が見つかったわけではないのですが、もうそう余命も長くないと思い弁護士に相談に訪れました。

1 相続税の基礎控除額は、「3000万円+600万円×相続人の数」ですので、事例の場合では4800万円となります。つまり、4800万円以上の遺産には、相続税がかかることになります。相続税対策を行った方がよいだろうとは思います。

2 まず最初に思いつくのが、毎年110万円の贈与を行うことです。贈与税は、毎年110万円までなら非課税です。定期贈与(毎年定期的に贈与をする契約)とならないよう注意が必要ですが、相続税対策として最も一般的に行われている方法です。難しい話ではなく、預貯金口座から、110万円ずつ各子どもの口座に振り込み、1回毎に贈与契約書を作っておけばよいだけです。
しかしここで注意をしなければならないのは、相続開始前3年以内に生前贈与により財産を取得した場合、相続税の課税価格に加算する必要があるとされている点です(生前贈与加算)。余命が長くないと言われてあわてて子どもに贈与をしても、効果が薄いかもしれません。
なお、孫3名に対する生前贈与分は相続税の課税価格に加算されるわけではありませんので、依然として効果の高い方法であることには変わりません。子どもだけではなく、孫や、子どもの配偶者など、相続人以外の人物への贈与も積極的に検討して下さい。

3 次に、生命保険を利用した相続税対策も効果的です。生命保険も相続税の課税対象になりますが、「500万円×相続人の数」までは非課税となります。冒頭の事例では、1500万円までは非課税となります。この非課税枠は是非積極的に利用していただきたいところです。
生命保険は、「新入社員のころや新婚のころに入り、長年払い続けるもの」とのイメージを持たれている方もいらっしゃるでしょうが、高齢になったり、病気になっても入ることができる保険があります。それこそ、ガンであっても入ることができる保険もあります。
具体的には、最近は損をするなどのネット記事もありますので、しっかりと内容を理解したうえで行う必要はありますが、一時払い終身保険を利用することが考えられます。近時流行の外貨建て保険の場合、為替リスクもありますので元本を完全に保証する商品ではなく、代理店手数料や運用リスクもありますが、節約できる相続税を考えますと、リスクを取ってでも申し込みをした方がよい場合もあります。
相談事例のように、夫に先立たれた女性の場合、夫はサラリーマン時代に生命保険に加入していても、妻は県民共済にしか入っていなかった、というようなパターンも多くあります。
仮に何も対策をしなかった場合の相談事例の相続税が630万円として、1000万円の生命保険に加入したら、相続税が480万円ほどまで減らせる可能性があります。
入院中であったり、余命宣告を受けていると活用できない場合もありますので、そのあたりはありのまま、弁護士やファイナンシャルプランナー、保険代理店にお伝えください。

4 ほかには、ガンが見つかった、というような事情で、一気にお金を動かした方がよい場合は、例えば「教育資金の一括贈与」という制度を利用することが考えられます。相談事例では30歳未満の孫がいるのなら、検討の価値があります。日頃利用している銀行に相談をすれば、パンフレットを渡して頂き、積極的に手続を教えて貰えます。具体的には、当該銀行に新しい口座を作成し、金融機関と信託契約(教育資金管理契約)を結びます。そして孫と贈与契約を締結し、その口座にお金を振り込めば完了です。受贈者(孫)1人につき1500万円までの贈与が非課税となりますが、教育資金にしか用いることができない、30歳までに使い切れなければその時点で課税される、などのデメリットもあります。毎年の110万円の贈与などを行う時間的余裕がない場合、あるいは大学の入学資金等を出してあげるまでは余裕もない場合には、検討の価値があります。

5 典型的には、「養子を取る」という方法もあります。相続税の非課税枠は、「3000万円+600万円×相続人の数」ですので、養子を1名取れば、相続人の数を増やすことができます。無制限に増やせるわけではなく、冒頭の事例では相続税対策としては1人までしか算入はできません。養子が1人増えても非課税枠は600万円までしか増えませんので、生命保険や教育資金贈与等に比べれば効果は大きいものではありません。何より、1人相続人(兄弟)が増えるわけですから、微妙な子ども達の仲に影響を与え、将来トラブルとなる可能性があります。積極的にはおすすめはしませんが、古くから行われる古典的な相続税対策ですので、一考の価値はあるかと思います。

6 あとは、「現金・預貯金を、不動産に変える」ということも考えられます。一般的には預貯金よりも不動産の方が相続税申告時は評価が低く算定されますので、有利となります。

7 上記の方法のうち、孫3人に3年間合計990万円を贈与し、1500万円の生命保険に加入し、孫3人に合計3000万円の教育資金贈与を行い、3年後に亡くなった場合、例えば対策前は600万円ほどであった相続税が、計算上は0円となることもあります。養子縁組までしなくても、相続税を減らすこともできる可能性があります。

8 但し、ここまで記事を書いておきながらではありますが、我々弁護士のところに来る紛争案件は、生前に相続税対策をしたことが原因で揉めはじめた案件も多くあります。「特定の子どもにだけ、生命保険を1500万円も残した」「知らない間に特定の孫にだけ1500万円もの教育資金が贈与が行われていた」「勝手に甥っ子と母が養子縁組していて、母が亡くなってから知った」など、子ども達のためにと思って行った行為が、紛争を呼び起こすこともよくあります。弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーに相談をして、関係者が納得のうえで進めるべきでしょう。

9 特に、認知症の症状があらわれてから、子どもが主導して相続税対策が行われるような事案は、10年かかる紛争を呼び起こすこともあります。何が幸せかは、考え方も色々です。何も対策をせずに相続税を払っておけばもめることもなかったのに、兄弟の仲がここまで悪くはならなかったのに、という事案もたくさんあります。
 まずは専門家にご相談ください。