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【弁護士向け】事務所移籍時の諸手続
弁護士 森田祥玄
私は名古屋にある弁護士法人から、ご縁を頂き、現在の愛知さくら法律事務所に籍を移させていただきました。大変幸運なことでしたし、受け入れてくださった皆さまに感謝しております。
ニッチな需要かと思いますが、備忘録を兼ねて弁護士法人(やインハウス)から法人ではない既存の事務所への移籍を考えている弁護士向けに投稿をしておきます。地域によって対応は異なるようですので、愛知県弁護士会(それも名古屋近辺)に限られる話かもしれません。
1 退職半年前
弁護士法人に退職をすることを伝え、引き継ぐ事件と移籍後もそのまま担当する事件を整理する。弁護士口座を作成していない人は、着手金・報酬金用口座と預り金口座の二つを作成する。
クレジットカードを持っていない、あるいは一つしか持っていない人は、複数作っておく。
フリーランス向けの確定申告の本、青色申告の本を読んでおく。
今まで白色申告だった人は、退職前の3月15日までに青色申告を行う旨の届け出を出しておく。届け出書類は税理士にもよく相談をする。
消費税の課税事業者になるタイミングを勉強する。弁護士は簡易課税の届け出をするのが一般的。すぐに届け出が必要になるわけではないが、その時期は勉強しておく。
2 退職3ヶ月前
移籍後の事務所にメールアドレスの作成を依頼する。
また、移籍後も担当する案件については、移籍をする事実と、移籍後のメールアドレス、電話番号等の連絡先を確立しておく。
フェイスブック、LINE、スカイプなど、メール以外の連絡手段を確実に確保しておく。
移籍後に使用するパソコンを購入し、設定をする。
パソコンの設定は移籍先の事務所にもよく相談し、慣れないなら費用を支払ってプロに設定してもらった方がよい気がします。
新しい名刺、職印を作成する(弁護士会の協同組合に相談すればOKです)。
弁護士向けの確定申告の本を読み、知人の税理士や移籍先の弁護士に事前に経理をどのように行っているのか相談をしておく。
3 退職2ヶ月前
弁護士会への届出口座の変更方法を弁護士会に確認する。弁護士会費の引き落とし、経費等雑費の引き落とし、弁護士会からの振込の、合計3つの届け出が必要となります。弁護士会費の引き落とし口座はすぐには変更できないため、2ヶ月ほど前には申請しておいたほうが無難です。
弁護士賠償保険は無保険期間がないように、移籍先の事務所に賠償保険の加入方法を確認しておく。
4 退職1週間前
法テラスに変更のFAXを送る。弁護士会に変更届の書類を提出する(日弁連のHPにもある)。
弁護士個人の変更届と、弁護士法人の構成員変更届の二つがある。
すべて自分でやるのか、法人がやってくれるのか、所属事務所に確認をする。
弁護士協同組合に、事務所が変わることを伝え、連絡先や引き落とし口座変更の手続きを行う。
他の弁護士に引き継ぐ案件の辞任届等を提出する(裁判所には原本提出)。
旧事務所と郵便物のルールを決める(郵便局のHPで転送届を提出する。転送届はネットで完結可能。後見等の郵便物もルールを決めておく。必要に応じレターパックを10個ほど旧事務所においておく)。
所属した事務所でお世話になった人(ボス弁など)に、お礼の品(ネクタイ、ボールペン等)を準備する。所属した事務所の皆様にもお菓子などを配る。
5 退職後1週間
年金を国民年金に切り替えるため、法人から社会保険資格喪失証明書などの退職を示す書類を作成してもらい、区役所の窓口に行く。
健康保険は、自分の収入で任意継続と国保切り替えのどちらが得か区役所窓口に確認する。任意継続の方が良いことが多いだろうから、その場合は任意継続に必要な書類を提出する。
担当案件の送達場所変更の届け出を行う。裁判所に係属している案件、後見案件、管財案件、示談案件の相手方代理人など。
ネット上の媒体(HP、弁護士ドットコムなどのポータルサイト、フェイスブックなど)の表記を変更する。
弁護士会に、交通事故相談の際の利益相反の対象となる保険会社が変更となる旨報告する。
6 退職後一ヶ月
経理のやり方を確立する。
成年後見の住所変更登記の申請を行う。弁護士会に事務所履歴事項証明書なる書類の取得方法を電話で尋ねる。そして法務局のHPから必要書類をダウンロードし、事務所履歴事項証明書を同封し、郵送する。これは初めての経験だと結構苦労するかもしれません。
あとは日々の仕事を行い、弁護士として生きていくだけです。
7 (その他)老後の備えをする
弁護士が独立する際、あるいは経費共同事務所に移籍する際、しっかりと勉強する必要があるのは、老後の備えです。個人事業主となりますと、厚生年金に入りませんので、老後は国民年金のみとなります。将来どうなるのか分かりませんが、現状でも年間の年金額は約80万円、ご夫婦の場合でも約150万円ほどとなります。
大きくは、4つの制度、つまり「小規模企業共済」、「日本弁護士国民年金基金」「iDeCo(個人型確定拠出年金)」、「経営セーフティ共済」への加入を検討するのがいわゆる街弁のスタンダードです。そのほか、余裕があればNISAも検討してください。
【小規模企業共済】
月額掛け金は1000円~7万円であり、掛け金は全額所得控除されます。
受給時期は退職時、廃業時、死亡時、任意解約時となります。但し、任意解約時は支払い済み掛け金から最大で20%分が差し引かれます。多くの弁護士は、小規模企業共済だけは掛けておくように、とボス弁から指導されているのではないでしょうか。
【弁護士国民年金基金・iDeCo】
それぞれ別の制度ですが、並列して記載されることの多い制度です。その理由ですが、月額掛け金が、「両制度の合計額」で最大月額6万8000円までとされるからです。
両制度よりかは通常、小規模企業共済を優先させることが多いように思われます。その理由は両制度は資金の流動性がない(高齢にならないと受給できない)点が大きいように思われます。
いずれも掛け金は全額所得控除されます。どちらの制度が有用かは古くから同業者間でも論争があり、両方の制度に少しずつ加入することもできます。しっかりと制度を見比べて、先輩弁護士や専門家(FP)にもご相談ください。
(弁護士国民年金基金)
年金ですので、受給時期は60歳または65歳となり、資金の流動性はありません。また、脱退事由以外の理由による任意の脱退はできず(掛け金の減額は可能です)、解約返戻金という制度もありません。1年分の掛け金前納も可能です(前納した年の所得から控除されます)。
(iDeCo(個人型確定拠出年金))
受給時期は60歳以降となり、やはり資金の流動性はありません。受給額は運用結果によります。なお、運用益に課税されないという大きなメリットがあります。
【経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)】
取引先事業者が倒産した際に、すぐに借り入れをすることができる制度です。弁護士業を行ううえで取引先事業者が倒産することはあまり多くはないかもしれませんが、所得控除がありますので、念のため加入している弁護士も多いかと思います。
月額掛け金は月額5000円~20万円であり、掛け金は全額所得控除されます。自己都合の解約であっても、掛金を40か月以上納めていれば、掛金全額が戻ります(ただし、12か月未満の解約は掛け捨てとなります)。但し、戻ってきた掛け金は、その時点での所得税課税の対象となります。
最初は掛け金5000円からスタートして、12か月経った時点でまた増減を検討するのがよいのではないでしょうか。
【 NISA】
NISAについては、勤務弁護士でも個人事業主の弁護士でも変わりはありませんが、やはり、老後資金の備えが通常の会社員や公務員に比べ必要となる自営業者は、活用を考えた方がよいだろうと思います。
通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対し、約20%の税金がかかります。一方で、NISA口座で投資した金融商品から得られる利益は非課税となります。ただしNISA口座で投資できる上限金額は年間360万円(積み立て投資枠120万円、成長投資枠240万円)、総額で1800万円までと決まっています。
NISAは所得控除とは関係がありませんので、従前、私は小規模企業共済、日本弁護士国民年金基金、iDeCoより優先順位が劣後すると考えておりました。しかし、近時の早いペースの物価の上昇を考えますと、NISAを始めとする比較的低リスクとされる分散型投資信託の積み立て購入も、各制度と並列して同時に検討した方がよいと考えを改めました。
ただし、投資ですので、損をすることももちろんあります。FPなどの専門家や先輩弁護士によく相談をして、少しずつスタートするのがよいのだろうと思われます。