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損害賠償と相当因果関係
弁護士 森田祥玄
損害賠償の法律相談を受けておりますと、「この損害についても相手方に請求できますか」という質問を受けることがよくあります。
その際に相当因果関係論の説明をするのですが、この相当因果関係という考え方は非常に分かりにくいものです。
そこで、法律相談時に相談者の方にお見せできるように、本ブログに考え方を投稿します。
【民法416条(損害賠償の範囲)】
まず、民法には、何らかの債務不履行や不法行為があったときに、債務者(加害者)がどこまでの損害賠償義務を負うのかを定めた条文があります。民法416条は債務不履行を想定した条文ですが、判例は不法行為の場合にも類推適用します。
(条文)
1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
【相当因果関係説とは】
学説上は様々な議論があるところですが、判例は損害賠償の範囲について、「相当因果関係説」と呼ばれる見解を採用しています。
相当因果関係説とは、①被害者に生じた権利侵害と加害行為との間に、事実レベルでの条件関係(あれなければこれなしの関係)が認められるとともに、②被害者に生じた権利侵害を加害行為に帰することが法的・規範的にみて相当であると評価できるだけの関係(相当性)が必要とする考えです。
民法416条1項はこの相当因果関係のある範囲の損害までを賠償範囲とすることを定めたものとされます。
そして民法416条2項では、特別の事情によって生じた損害でも、債務者(加害者側)がその事情を予見すべきであったときは、債権者(被害者)は、その賠償の請求をすることができると定めたものとされています。
このような相当因果関係説によれば、債務者(加害者)は、まず、民法416条1項によって、「通常生ずべき損害」、すわなち社会通念上相当と考えられる範囲の損害の賠償責任を負うと考えられています。通常生ずべき損害ならば、当事者が予見できたか否かは問題となりません。
また、民法416条2項によって、「特別の事情」によって生じた損害であっても、「当事者」がその「事情」を(損害の発生ではなく、その「事情」を)予見すべきであったときは、やはり債務者(加害者)損害の賠償責任を負うと考えられています。
ここでいう当事者とは、債務者(加害者)を指すものとされます。
【具体的な裁判例の紹介1】
考え方は以上のとおりなのですが、実際の適用の場面になると、どのような判決になるのか予測が難しいのが相当因果関係論です。
例えば「船が送電線を切ってしまった。その結果大規模な停電が起こり、列車が止まった。鉄道会社が、運賃の払い戻し費用等の損害賠償を、船の会社に求めた」という裁判がありました(東京地裁平成22・9・29判時2095号55頁)。
判決では、東京地裁は、「相当因果関係の判断にあたっては、被告(加害者)の従業員らにその予見可能性を肯定できるかが問題となる」として、船会社従業員の予見可能性を検討し、結論としては船会社従業員の予見可能性を否定しました(鉄道会社の損害賠償を認めなかった)。
理由としては、送電線が切断されても直ちに停電が起きるわけではないこと、停電となっても直ちに列車が運行停止になるわけではないこと、他の停電事故で運行停止になっていないこともあったこと、そして停電事故で何もかも損害を認定すると損害が無限に拡がり加害者に酷だという事実上の考慮もして、従業員らの予見可能性を否定しました。
【具体的な裁判例の紹介2】
12歳の女児の死亡事故(交通事故)で、母親が視力低下を訴え、整体にも通うことになり、心療内科にも通院をした、という裁判がありました(名古屋地裁平成21・12・2交民42巻6号1571頁)。母親の視力低下、整体の治療費については、医師から被害者の死亡が原因である可能性が高いといわれてはいたと認定されているのですが、それでも判決では、視力低下と整体の治療費については事故との間に相当因果関係を認めることは難しいとされました。他方、心療内科の治療費については、事故との間に相当因果関係が認められるとして、請求を一部認容しています。
【相当因果関係で悩んだら】
相当因果関係の議論は、個別の事情によって判断は異なります。
上記裁判例の心療内科の治療費などは、大きな事故であったり凄惨な現場を目撃していれば認定されやすいでしょうが、物損事故ならば認定されにくいだろうと思います。また、短期の通院ならば認定されやすいでしょうが、通院が長引いていれば認定されにくいだろうと思います。
また、例えば、「交通事故に遭って、車から降りた際に別の車に轢かれた(別の車は逃げており、誰か分からない)」という相談を受けたら、ぱっと聞くと認められにくいという印象は持ちますが、例えば高速道路上の事故であった、車両の損傷が大きく路肩に寄せることが困難であった、夜であり見通しが悪かった、などの事情が積み重なれば、認定されることもあるだろうと思います。
裁判官によっても判断は異なり、第1審が名古屋簡裁、控訴審が名古屋地裁の場合で、異なる結論となったことも一度や二度ではありません。
弁護士に相談をして、是非、ご自身で納得できる回答を得てください。